あかねさん奥にて800番げっとのリクエストです。「カイルがユーリの国の勉強をユーリに教わっているところ」でも、ユーリって勉強苦手そう。高校には受かっているけど、どうなんでしょう?
 
スタディング


 お后教育、というものをされている。
 イル・バーニが選んだ高名な学者さんが、いれかわり立ち替わりお勉強を教えてくれる。
 カイルの厳命で三姉妹の誰かが部屋の隅で座ってあたしの様子を見張っている。脱走なんてしないのに。
 地理は、けっこう得意。軍を率いて遠征したのが良かったみたい。歴史もおもしろい。
 日本にいたときは苦手だったのにね。
 数学はほとんどしなくていい。得意だったのに。理科は、この時代にはないみたい。
 楔形文字は、ヒッタイト語だけではなく、アッカド語も習わなくてはならない。これには手こずっている。でも、正式な文書は、全部アッカド語なんだよね。
 カイルはときどき様子を見に来てくれる。カイルの顔を見ると、ご褒美をもらった気分になる。嬉しくて、ついべたべたくっついてしまう。
 今日も、カイルは政務の間に顔を出してくれた。
「どうだ、はかどっているか?」
 髪をくしゃくしゃかきまわされる。
「頑張ってるよ」
 目を閉じて胸に寄りかかると、抱き上げられた。
「少し休憩だ」
 頭を下げている先生にカイルは言う。そのまま、中庭まで連れ出される。
 風通しは良いとはいえ、一日部屋の中にいたのだから、やっぱり外は気持ちがいい。
 深呼吸すると、草のうえに下ろされた。
 どこかで鳥が鳴いている。
 ごろんと寝ころんだカイルのわきに身体をのばす。よりそってカイルの匂いをいっぱい吸い込む。
「今日は、神話の勉強をしたの」
 カイルの指がうながすように髪を梳いている。
「知らなかった・・・イシュタルって、恋人がいっぱいたんだね」
 とても美しくて、力が強い気高い神様。自分がそんな女神にたとえられているなんて、ウソみたい。
「おまえには、一人だがな」
 カイルが笑う。返事のかわりに、のびあがってキスをする。
 女神さまが全部の恋人を想う分を合わせたより、大好きなカイル。
 お返しのキスは、ご褒美にはもったいないほど濃厚だ。
 覆い被さったカイルの肩に腕をまわしながら、夢中で応える。
「勉強は、退屈か?」
 ようやく離れた唇から、言葉がつがれる。
 呼吸を整えながら首を振る。
「ううん、楽しい。だって、もうすぐカイルの奥さんになるんだもん」
 たったひとりの、正妃に。カイルの国のいろんなコトを学んで、カイルの国の人間になる。ひとつ覚えるたびにカイルに近づく気がする。
「あたし、頑張ってこの国の人間になるからね」
 ほほえんでいたカイルの目が、急に真剣になった。真っ直ぐにのぞき込んでくる。
「いいのか?」
 忘れられるのか?故郷のことを。家族のことを。そう訊いている。
 もう、戻れない。だから、忘れるしかない。それは分かっているはずだ。
 だけど、カイルは、ときどきひどく真剣な目で訊ねる。
 あたしがカイルを選んだことを後悔していないか。後悔を感じないほどに愛されているのか。
「だって、カイルずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
 胸が痛むのは、悲しいからでも淋しいからでもない。
 今度は、カイルがキスで答える。


「おまえの国の事が知りたい」
 カイルの言葉を聞いたとき、嬉しかった。カイルもあたしに近づきたい?
「勉強は得意じゃなかったの」
 言いながらも、いそいそと用意をする。まず最初は、ひらがなから覚えてもらおうかな。
 因数分解とか、得意かもしれない。それから、社会。あたしの国の人口を知ったら驚くはずだ。
 二人で近づけば、倍の速さで接近できる。もっとそばにいたい。
「授業料は?」
 カイルがたずねる。
「知ってるでしょ?」
 笑うと、キスの雨が降り始めた。


                おわり

 

 しまった・・・「教わっているところ」じゃなくて「教わり始めたところ」になってしまいました。ユーリが教えているところなんて、意外に難しいです。(あたしの国ではこうなんだよ、ぐらいの会話は寝物語にしているだろうし・・・)

    

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