auiさん、奥にて29000番のキリ番ゲットのリクエストは「便器の国の氷室君」。
 今回は新たな顔合わせで・・・

風呂場の邂逅



 一日の後の風呂は何よりも楽しい。
「はあ〜生き返るわ〜〜」
 ハディは浴槽の中で思いっきり手足を伸ばした。
 ここは後宮の浴室。
 本来なら女官風情が使える場所ではないのだが、本日の後宮の主は王宮に召されて留守である。
「あたしがあっちに泊まるときは使ってくれてもいいよ」
 くだけた様子で正妃は言った。
 庶民はせいぜいが川や池で水浴びをする時代、沸かされた湯をたっぷりと注いだ浴室は一部の高貴な者にしか許されていない贅沢だった。
 夜の身支度の後、捨てられてしまう湯を惜しんで、ユーリは言ったのだった。
「でも、私どもがそのような・・・ユーリさまがまたお使いになるかも知れませんのに」
「大丈夫、どうせ朝まで戻ってこないし」
 言ってから、ユーリは頬を染めた。
「朝もあっちのお風呂を使うから」
 一度皇帝の寝所に召されてしまえば、朝まで後宮に戻ってこないばかりか、朝食も身支度もあちらで済ませてしまうのは事実だったので、ハディは好意に甘えることにした。
 他の女官達にも声をかける。
 正妃のための浴室は、数人がかりで入っても充分なほどに広かった。
 歓声を上げる女官達に、これは今日だけの特別なこととクギを刺すのも忘れない。
 さんざめく女官達の声をしり目に、責任感の強い女官長は明日の身支度の準備に精を出し、ようやく片づいた頃には浴室には人気がなかった。
「まあ、いいか」
 広々とした浴槽を独り占めに出来るのは気持ちが良い。
「今日も良い一日だったな」
 言いながら、足を動かしてみる。
 指の間をすり抜けてゆく湯の感触がおもしろい。
 しばらく無心にハディはバタ足を続けた。
 激しくかき回された湯がしぶきを上げる。
 ばしゃばしゃばしゃ!!
 ふと、足先に引き込まれるような感覚を覚えた。
 なんだか渦を巻いているような・・・
「???」
「うわあああああ!」
 突然、叫び声が上がり、湯が吹き上げた。
「きゃあっ!?」
 日ごろからあまり物事には動じないようにしているとはいえ、無防備な浴室でのこと、ハディは一応驚きの声を上げた。
「ああああ・・・」
 湯の真ん中には、立ちつくす姿。
「・・・・ヒムロ?」
 昨日、風呂場に氷室が現れてね、とユーリはハディに訴えた。
 ヒムロというのは、なんでしょう?
 あたしが昔つきあっていた人よ。でもどうも最近怪しいの。
 ユーリは声を潜めた。
 氷室ったら、カイルにほの字らしくって。
「あなたはヒムロね?」
 風呂場に現れるのはヒムロだ、とハディは直感した。
 氷室は口を開けたままあたりを見回した。
「ここは・・前にも来たことがある・・確か便器の国の高級ソープ・・・」
 はっと振り向く。
 期待に反して、湯船に浸かっていたのは、いつぞやの夕梨でもなく、その愛人らしい便器の国の王子でもなかった。
 ナイスバディの美女(しかも金髪)が、胸元を片手で隠しながら眉をひそめていた。
「あ・・・」
 氷室は混乱した。
 なぜ、またこの店へ?この美女は誰なんだろう?
「夕梨はどこだ?」
 ハディは聞き覚えのある言葉を耳にして目尻をきりきりと釣り上げた。
「ユーリさまを馴れ馴れしく呼ぶなどと、無礼者!」
 バサリと立ち上がる。
「わ、わっ!?」
 氷室は慌てて目を覆った。生で外人さんは初めてだったからだ。
「お、お姉さん、俺、金持ってないんです」
「お前はまだ性懲りもなくユーリさまを連れ戻す気なの?」
「ここに来たのも偶然で・・・チャージ料とか払えないし」
「ユーリさまは一生ここで暮らすおつもりです、お呼びでないのよ、お帰り!!」
 一喝されて氷室は指の隙間から、立ちはだかるハディをのぞき見た。
 相手は妙齢の女性、青少年には目の毒だ。
「・・・いくらですか?」
 聞いてみたのは後学のため。
「わかればいいのよ」
 ハディは力強くうなずいた。
 張りのある胸が大きく揺れる。
 たらり、と氷室の鼻から赤いモノが滴った。
 やっぱり、高級な店は違う、と熱くなった頭で考える。
 そんな店にどうして夕梨がいたのかは分からないが、きっとある種のマニアの客がついているんだろうな。あの愛人の王子もぞっこんだったみたいだし。
 ぞっこん、と考えると氷室の胸はちくりといたんだ。
 会えなかったのは残念だ。かわりにいいもの見たけれど。
 思いながらも止めどなく流れる鼻血に意識が遠くなった。
「こんど来るときは・・・」
「二度と来るんじゃないわよ!」
 上体がぐらりとかしぎ、氷室の姿は湯に沈んだ。
 後には一筋の赤い液体が渦を巻き、やがて吸い込まれるように消えた。
 腰を手に当てたまま、それを見送ったハディは大きくうなずいた。
 とりあえずは、追い返せたのだ。
 不意に冷えを感じて、もう一度湯船に身体を沈める。
 ため息が漏れた。
「なにを言っているのか分からなかったけど・・・なんとなくニュアンスは伝わるものね」
 明日の朝はユーリさまに報告しなくちゃ。
 思うと、ハディはもう一度大きくのびをした。


           おわり   

       

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