明けない夜 

               by yukiさん

 目を覚ますと鼻先に黒髪がある。
 腕には確かに頭の重みを感じる。
 肌触りの良い夜着の上から包み込むように抱きしめると軽く身じろぎをした。

「ん・・・」

 眠りの国に捕らわれたままなのか、聞こえてくるのは規則的な寝息。
 安らかな寝顔をながめていると穏やかな気持ちになれる。

 初めてだった。
 ここまで許してしまった相手は。
 ここまで踏み込ませてしまった相手は。

 おまえが現れるまで女を選ぶ基準は正妃にふさわしいかどうか。
 だからどんなに通いつめた姫とも朝を共に迎えることは無かった。
 情熱的な時間を過ごしていても頭のどこかが冷めていた。
 いつだって夢中になって溺れるなんてことは無かった。

 それなのに・・・。

 首の下に差し入れた腕を曲げて黒髪を指に絡ませる。
 やわらかな髪を弄び、黒髪越しに額に口付ける。
 おまえに溺れきってしまっている自分に呆れてしまう。
 だが探し求めていた女を正妃にすることはできない。
 こんなにも愛しいのに・・・。
 どんなに愛しく想おうと手放さなくてはならない。

 おまえを日本に還す。
 自分の欲望で抱いたりしない。

 そう自分に誓いを立て、守ろうとすればするほど苦しくなる。

 還したくなんて無い。
 おまえを自分のものにしたい。
 いつまでもこの腕の中に!
 
 どうやったらおまえは残ってくれる?
 どうすればずっと側にいることができる?

「ユーリ」

 わたしに許されているのはおまえを抱きしめ口付けを交わすこと。

 まだまだ幼さを感じさせる華奢なカラダ。
 まだ何も知らない無垢なおまえ。
 
 腰を抱いていた手でユーリの手を握る。
 口元まで持ってきてその指に、その甲に口付ける。

 伝えたい言葉はいつになれば言えるのだろうか?
 言える日は来るのだろうか?
 言えればおまえは残ってくれるのだろうか?

 アイシテル

 ほんの一言が咽喉元でつかえる。
 

                        END 

       

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