肌のぬくもり


 荒れすさぶ吹雪が獣の咆哮のような音を立てる。
 眠ってはいなかったのだろう、合わせた肌が身じろぐのをラムセスは感じた。
「・・・眠れよ」
「ですが・・・」
「分かってる、だがとにかく目を閉じるんだ」
 そうすれば、少しでも体力が回復するだろうから。それに起きていて動かれると困ったこともあった。
 ざらり、と脛に濃い毛の感触がある。
 ラムセスは顔をしかめた。
「・・・動くな」
「で、でも動いた方が・・・眠っている間に」
 身近で地を転がるような音が断続的に響いている。
「死にゃあしねぇよ・・・この阿呆が五月蠅いのか?ワセト?」
「き、聞こえますよ、将軍!」
 また、肌と肌が擦れ合った。ラムセスは吐き気を堪えながら言う。
「こいつのせいでこんな目に合ってるんだ、しかもぐうぐう寝やがって!」
 はらり、と肩に巻きつく布がはだける。
 慌ててワセトの腕が伸びて、それを巻きつけ直す。
 拍子に鍛え抜かれた胸板どうしがこすれた。
「・・・動くなと言っとろーが!!」
 ぴったりと感じる同性の肌の感触に粟立ちながらラムセスは副官を怒鳴りつけた。
「しょ、将軍!王が目を覚まされます!!」
 ワセトはあろうことかラムセスの胸にぴたりと手のひらを貼りつけて言った。
 なま暖かい感じがとてつもなくイヤだった。
「触るな!!オレは男に触られるのが嫌いだ!!」
 言うとラムセスは脇腹のあたりに押しつけられていた、毛深い脚を殴りつけた。
 ぐおおおぉぉ!!
 吠え続けていた音がぴたりと止んだ。
 大きなあくびの声が暗闇の至近距離でした。
「なんだ、ラムセス、まだ眠ってなかったのか・・・」
 今の今まで高いびきだったホレムヘブ王がごそごそと動いた。
 どうやら殴りつけたのは王の脚だったらしい。
「いかんぞ、軍人はいついかなる場所でも眠れなければ」
 今のホレムヘブはきっと得意そうな顔をしているに違いない。
「・・・アンタがこんな辺境くんだりまで視察に来ようなんて言い出さなければこんな目に合わなかったんだ」
「シナイ半島は常に目を光らせておかないとなあ」
 王は至極常識的な意見を吐いた。
「それに山の天気は変わりやすいですから、将軍!」
 ワセトが必死にフォローする。
「・・・だからってなんで今頃の季節に雪が降るんだ!?しかも本隊とはぐれるなんて!」
「将軍、諦めましょうよ・・・」
 ワセトはため息混じりに言うと、ごそごそと身体を縮めた。
「どうやら感情的になるのは、不安だからか、おまえらしくもない!」
 ホレムヘブらしき男の太腕が、ラムセスとワセトに同時にまわされた。
 ものすごく嫌な感じだ。
「しかし、ワシにまかせておけ、雪山で遭難したて薪がないときはこうやって人肌で暖め合って夜を越すのが定番じゃ」
 なにが定番か!
 ラムセスは己の運命とホレムヘブを同時に呪いながら、いまだぴったり押しつけられている男の身体の感触に身震いした。
 
                      不幸

      

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