晩春

                  by yukiさん

 むせるほど花の香りが部屋にあふれかえる。
 薔薇が部屋のあちこちに生けられ寝台にも散りばめられていた。
「どうした?」
 花の香りからよく響く声へと意識が移る。
「薔薇の香りが」
「今年1番の薔薇だ」
「こんなにたくさん?」
「おまえのためだ。気に入ったか?」
「すごい・・・ね」
 見つめあう琥珀の瞳がゆっくりと近づいてくる。
 酔いそうなほど濃厚な香りの中でも乳香が鼻をくすぐる。
 やわらかな髪に手を差し入れゆったりとした手の動きに身をまかせる。
 体を動かすたび花弁が舞い上がるのを見るともなしに眺めていた。

 薄暗い灯火のもとでひらひらと儚く舞い落ちる。
 赤、白、桃。
 妙に鮮やかに花弁が舞う。

 ふと胸元に舞い降りてきた真っ赤なそれをつまみあげられあった場所には花弁が刻まれる。
 薔薇よりも赤く情熱的な花弁。
 花びらが舞い降りるたび増えていく。
 逞しい胸に体をあずければ彼の胸にもひらりとのる。
 あたしもそこに刻み付けてみる。
「今夜は積極的だな」
 薔薇の香りに意識が霞む。
「いつもこうでもいいんだぞ?」
 そんなこと言われても・・・。
「かわいいユーリ」
 頬が熱くなるのを感じる。
「おまえは美しいよ」
 重なり合う肌に酔っていく。
「もっとわたしを酔わせてくれるか?」
 カイルも酔っているの?
「愛してるよ」
 あたしも伝えたいけれど、口からこぼれるのは意味を持たない声ばかり。

 目を覚まして部屋を眺めてみると、ほんとうに薔薇でいっぱいだった。
 赤、白、桃。
 そんな中で目をひく花瓶がひとつ。
 黄色の薔薇で満たされた花瓶。
 黄色い薔薇の花言葉は。
「もう起きたのか?」
 声と共に腰に腕がまわされる。
「薔薇の花こんなにいっぱいだったんだね」
「おまえのためだ」
「ねぇ、知ってる?黄色い薔薇の花言葉」
「いや。何だ?」
「嫉妬」
 くすりと笑うとカイルの腕はもう一度あたしを寝台の中へと引きずり込んだ。
「わたしにぴったりだな」
「何で?」
「おまえのこととなると神に対してすら嫉妬してしまう」 

                           END

       

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