GOLD


 誰にも出来ない恋をしよう。


 きらきらと光っているのはなんだろう。
 視界一杯にあふれた輝きにそっと手を伸ばす。
 くしゃりと柔らかにからむ。
 ああ、日に透けると金色になるんだ。
 そう思うと、無心に梳き上げ、指の隙間から落としてみる。
 金の糸の持ち主は、左の肩に顔を伏せたまま安らかな寝息。
 腕の中にいることには慣れていたけれど、今日はどういうわけか覆いかぶさる身体。
 胸が圧迫されたために息苦しくて目が覚めた。
「・・・よく寝ているなあ」
 声に出さずに唇だけで形作ってみる。
 考えてみれば、今までにここまで体重をかけられたことはなかった。
 やっぱり体格差が大きいし。
「手加減、してくれてた?」
 耳元ですやすやと繰り返されるのがくすぐったい。
 疲れているんだろうな。
 相変わらず金色を弄びながら、ぼんやり思う。
 ここんところ、忙しかったし。
 皇妃になってから初めて知ったカイルの仕事の膨大な内容。
 今までこれを一人でこなしてきたんだね。
 考えたら、後宮にやってきても愚痴の一つもこぼすでなく、きっとしょうもないであろう話にも愛想良く相づちを打ってくれる。
 二人っきりになってからも優しくて。
「甘やかされてるなあ、あたし・・・」
 一応仕事の分担は決めたけれど、ややこしいことは全部カイルが処理してくれるし、実際皇妃になってからだって、産休や育休なんかでフルタイムで働いた記憶がない。
「なんでこんなに甘やかすの?あたし、ナマケモノになっちゃうよ」
 指にからめて前髪を軽く引いてみたり。
「・・・あたしのこと、好きだから?」
「う・・・ん・・」
 カイルが不意に動いたので思わず身体を硬くする。
 聞こえてしまっただろうかと赤面。
 カイルは小さくのびをすると、そのままごろりと寝返りを打つ。
 ユーリの身体に腕を巻き付けたまま。
 自然にこんどはユーリが上に乗ることになる。
「・・・ホントに寝てるのね」
 ちょっと安心。
 自分でも大胆な発言かと思ってみたり。
 白日の下に晒された寝顔にそっと指を触れる。
 通った鼻筋や、伏せられた睫毛。
「あたしにももっと甘えていいんだよ?」
 吐息みたいにささやいてみる。
「だって、カイルがあたしを好きよりずっと、あたしはカイルが好きなんだから」
 言ってから、閉じられたままのまぶたが揺れないかと期待する。
 けれど。
「起きないなあ」
 いたずら心でそっと唇を重ねてみる。
 まわされた腕に力がこもらないかと期待してみたり。
 耳を澄ませば、相変わらずの寝息。
「・・・起きてよ、バカ」
 勝手な事を言いながら、指を金の流れで遊ばせる。
 きっと、この髪の色を知っているのはあたしだけだね。
 そう思うとたまらなく幸せになってきて。
 顔がゆるむのがおさえられない。

 浮き上がりそうになる気持ち、これは恋だね。
 これから先だって、毎朝目覚めるたびにこうやって恋に落ちるんだろう。
「そう考えるとすごいね」
 のんきに寝ている鼻をつまもうかと考えて、思い直す。
 このまま、しばらく独り占めしちゃおう。
 重なる胸に頬をあてて瞳を閉じる。
 
 今朝もあなたに恋をした。


                             おわり

      

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