くすくすサマー

                           by父之日屋マリリンさん


「父の日だな。」
 ぽつんとカイルがつぶやく。
「えっ?」
 振り向いたユーリは怪訝な顔でカイルを見つめた。
 父の日がどうかしたの?
 問い掛けるようなユーリの表情をみてカイルはくすくすと笑った。

「今年の父の日はデイルたちは何をしてくれるのかな?」


 その言葉にユーリは去年の事を思い出した。
 ぱあっと顔が赤くなる。
 そろそろと後ろに下がっていくユーリをすばやく捕まえると、カイルは囁いた。
「ま、あれはあれで嬉しかったがな?」
「カイル!もう忘れて。お願い。」
(ああ、思い出したくなかったのに。カイルのバカ)


                       ※※※※※


 去年の父の日
 夜更けの寝所で
「寄らないで。」
「離して。」
「触らないで。」
 矢継ぎ早に心に突き刺さる言葉を投げつけられて、カイルは硬直していた。
 青ざめた顔で肩を震わせながら、自分を睨み付けているユーリが信じられなくて・・・

「ユーリ?どうしたんだ?」
「いやっ」

 そっと伸ばした手は払い除けられた。
 涙が頬を零れ落ちるのを拭いてやることもできない。


「いったいどうしたんだ?」
「だって、カイルいつもと違う香りがする。」
「違う香り?」
「私はそんな香りはつけていない」

 移り香が残るほどいったい誰を抱きしめていたのか。
 そう思うだけで、心がちぎれそうで。
 誰かを抱きしめた腕で私に触らないで。


 混乱しているユーリを見つめながらカイルは必死に記憶をたどる。
 今日 謁見の場でなにかあっただろうか?
 宴はなかったし・・・・・
 そんな香りが残るようなことなど・・・・・・
 女性を抱きしめた覚えなどもちろん な・い・・・・・・こともない

 とても小さいが、一応女性だ・・・・

 マリエか?



「とうしゃま、マリエを一日中抱っこしていたいっていってたよねえ。」
「ぼくたち、かあさまと一日中遊んでいるから、その間に抱っこしていたらいいよ。」
「かあしゃまが、とうしゃまのじゃましないようにしていてあげる。」
「マリエはお花みたいだから、お花の香りがするようにハディにお願いしたの。
いい香りでしょう。ね、とうさま」

 父の日のプレゼントだった。

                            ※※※※※

「妬いてくれたってことだからね。」
 その顔はどこか嬉しそうで・・・・悪戯っぽくて・・・

「なあ、ユーリ」
 カイルが口を開きかけたそのとき

「とうしゃま」
 ピアが飛び込んできた。
「去年はマリエだったから、今年はピアが一日抱っこされててあげる!」

「なっ」
 絶句するカイルに飛びついたピアからはなぜか去年のマリエと同じ香りが・・・
「今年は焼餅を妬かないから安心してね。」
 そう言って部屋を出ていくユーリを苦笑しながら見送る。

「とうしゃま、うれしい?」と尋ねるピアに「ああ」と頷き笑顔を見せながらカイルは
『来年はきっとデイルの番だな。』と思っていた。


                        おわり

       

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