マドさんの1111キリ番げっとリクエスト、「わがままユーリに困ったカイル」です。でも、カイルユーリのわがまま嬉しいと思うだろうな・・・。
それと、ユーリのわがままって、思いつかない。ということで、今回も外してるかも・・・
エスケープ フロム
ユーリがわがままだ。
たまになら、かわいいと思うだろう。だが、最近のユーリのわがままは、目に余る。
なにしろ、朝から晩まで不平不満を口にする。飲めない要求を突きつける。
突き返せば、怒りだす。無視すればすねる。
どうして良いのか分からない。
以前はこんな事はなかったのに。
「また、食べないのか?」
ハディの下げた食器をのぞき込む。食事にはほとんど手をつけていない。
ハンストをしている気なんだろうか。
「はい、だいぶおやつれのご様子です」
ハディが肩身を狭くして答える。隠すつもりなのだろうが、口調に非難が混じっているのに気づく。
女官にまでいらだちを与えるとは、どういうつもりだ。
「 無理にでも食べさせろ。身体がもたない」
ただでさえ細かったのに、最近のあいつときたら、少し強く触れただけで痣が浮くほどだ。
「すぐにもどしてしまわれるので」
意を決したようにハディが言葉を継ぐ。
「このようなことを申し上げるご無礼をお許し下さい。陛下が折れて下さらなければ、ユーリさまは・・・」
「私に認めろと言うのか?」
あんなことを。前代未聞だ。
たしかに、私はあれに溺れている。だからといって、なにもかも認めるわけにはゆかないのだ。
「陛下」
部屋の隅に控えていたイル・バーニが、口を開いた。
「ご心情は拝察いたしますが、ユーリさまのお体が心配です」
「一度認めてしまえば、今後も認めることになる」
私は、いらいらと部屋を動き回った。
「そうなれば、この国の民はどう思う?」
無表情のイルを振り返る。
「あれは、この国の人間になると言った。だから慣れるべきだ」
私が、ユーリのことを心配していないとでも思うのか。誰よりも思いやっているのは、私だと信じている。
「しかし、陛下」
「もう、いい。下がれ」
片手を振ると、退出させる。
暑い。熱気が街を支配している。疫病が流行りはじめていると聞く。
仕事は山積みで、そのうえ、ユーリの問題まで絡んでくる。
うだるような暑さの中、黙々と政務を片づけて後宮に向かえば、不機嫌な顔が出迎える。 たった一度笑顔を向けてさえくれれば、この煩雑さからも解放されるだろうに。
「後宮に、行く」
キックリに命じる。ご機嫌伺いと言うよりは、不機嫌伺いだ。
こうやって、毎日寸暇を惜しんで訪ねてさえいても、ユーリの心はかたくなだった。
「怖れながら、陛下・・ユーリさまの件ですが」
キックリがおずおずと申し出る。
誰も彼もが、ユーリのわがままを許せと言う。
「これは、私とユーリの問題だ」
黙らせる。
「ユーリ、気分はどうだ?」
中庭を臨むテラスで、寝椅子に身体を横たえるユーリに話しかける。女官が数人、扇で風を送っている。
のろのろと頭を持ち上げたユーリは、無言で顔を背けた。
一瞬いらだちが支配するが、背けられた首から肩の線のやつれ具合に、息を飲む。
痩せている。最近、ユーリが夜を拒むようになったために、その身体を確かめることすらままならないが、それでも白い衣からのぞく腕や脚の青みがかったはかなさに、胸がしめつけられる。
「ユーリ、分かってくれ」
そばの床几に腰をおとす。細い手を取り上げて、包み込みながら話しかける。
「私だって、おまえの望みはかなえてやりたい。だが、今回はそうはいかないのだ」
返事のない身体を抱き寄せる。抵抗するより早く腕で戒める。
「おまえが海育ちなのは知っている。だが、ここから海までは往復で半月はかかる。私から離して一人でやるわけにはゆかない」
女官達の扇の動きが激しくなったのか、風が強くなった。かまわずユーリをさらに強く抱く。
「河だってそうだ。往復で、3日。そんなに長い間おまえと離れることは耐えられない」 首筋に顔を埋める。柔らかな肌に、熱く口づける。
ユーリが身をよじった。
「それに、疫病が流行り始めている。郊外の池や川だって心配だ。中庭の泉水だと、他の男の目に触れる心配がある。泳ぎたいなんて、言わないでくれ」
「・・・なして・・」
「うん?」
ようやく絞り出された声をよく聞こうと、耳を近づける。
「暑いから、離して!!」
思う以上に強い力で突かれた。だが、そこは体格の差、ユーリの身体のほうが私の腕から転がり出た。
寝椅子から落ちたユーリに双子が駆け寄る。
「ユーリさま!!」
どこかをぶつけたのか、動かないユーリに私も寝椅子をまたいで近寄った。
「ユーリ、大丈夫か?」
「触んないでってば!暑いからべたべたしないで」
心ない拒絶の言葉に愕然とする。
「もしかして、もう私のことを愛してないのか?」
「なんでそうなるのよ!!」
いつのまにか取り囲んでいる女官が、なおいっそう風を強く送ってくる。バタバタとうるさい。強風に髪を煽られながら、私は思いを巡らせる。
夏に入ってから、ユーリは私に抱かれるのを嫌がるようになった。あの時からすでに心が離れ始めていたのか。
そして、突然海に行きたいと言い出した。あれは、私から離れたいという意思表示だったのか。
疑惑が次々と頭をもたげる。明け方、知らぬ間に寝台を抜け出していた。食事の時、膝に乗るのを嫌がった。入浴時に、湯殿をのぞいたら湯をかけられた。宴会の時に、胸元に手を入れたらつねられた。
すべてが、愛の醒めはじめた兆候だったのか。
食事を摂らずに弱って行くのは、私のそばにいるよりは死んだ方がマシだという意思の現れなのか。
私は震えながら、ユーリを見た。
双子の手を借りて立ち上がり、上気した頬で、肩で荒く息をしている。
「ユーリ、お願いだ。私を捨てないでくれ・・」
懇願する。みっともないなどとは言っていられない。これは私の命に関わることだ。
「な、なに馬鹿なこと言ってるの・・」
言うと、突然ユーリは昏倒した。
「ユーリ!!」
悲鳴が上がり、女官が数人、扇を取り落とした。双子の腕の中で、ぐったりと意識を失ったユーリの顔は真っ赤だった。
「お医者さまを早く!!」
「すぐに寝椅子に」
「お気を確かに」
走り回る周囲の中で、私は突っ立っていた。
「熱中症です」
医者があっさりと言った。
「水分をよく摂らせて・・・身体を冷やしてください。ひどくなると命にかかわります」
ハディが涙を浮かべながら、ユーリの額に濡れた布を載せている。女官部隊(ものすごい数だ)が、いっせいに扇を振っている。
「海辺のお育ちと聞きました。海辺の気候は、昼には陸風夜には海風が吹いて穏やかですからな。ハットウサの夏はお体に障るでしょう。転地療養をおすすめします」
医者は、勝手なことを言うと低頭した。
ユーリの身体に障るのなら、転地療養も仕方ないだろう。だが、二人が愛の危機を迎えている今、離れることは終焉を意味するのではないか。
「やはり、離宮に移られるべきですな」
いつのまに来たのか、イルが言った。
「ユーリ一人でか?」
「陛下もご一緒にです」
イルが深々と頭を下げる。
「宮中全体が避暑のために、湖の離宮に移ります。政務はそちらで」
小さな歓声が上がった。双子の声のような気がしたが、無視することにした。
投げだされたユーリの腕をとる。
「ユーリ、聞こえるか?一緒に湖に行こう。私と一緒の時なら、水に入ってもいいぞ」
赤らんだまぶたが、ふるえながら開いた。
「・・ほんと?」
「ああ、本当だとも」
ユーリの顔に、よわよわしく微笑が浮かんだ。笑顔を見たのは何日ぶりだろう。
「嬉しい」
私はユーリの手を強く握りしめた。じっとりと汗がにじむが気にしない。
「まだ、私のことを愛していてくれるな?」
かすかに、眉がひそめられる。答えを待って息を飲む私の耳に、非情なユーリの声が届いた。
「暑いから・・・離して」
終
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