いなくなった魚

                     by 魚屋マリリンさん

 ここは、カイルの部屋
 私はカイルの腕の中でまどろみ始めていた。
 あれから、マリエ シンと二人の子にも恵まれ、満ち足りた日々を送っている。



「なあ、ユーリ」
「?  うん?」
「最近、あの魚弱ってきたと思わないか?」
「あの魚って?」
「王宮中庭の池の主だ」
 私はいっきに目が覚めた。
 あの魚とカイルはいわば天敵同士。
「お前も子供たちも、魚の味方をする」と言ってどんなにふてくされてきたことか。
 いや、今日もふてくされていた。
 そのカイルの口から、こんな言葉がでてくるなんて。
 思わず身体を起こす。

「なあ、弱ってきたと思わないか?」
「そ、そりゃあね、捕まえたときからだってもう何年もたっているし。
あの時、あんなに大きかったんだもん。もうかなりの歳(?)だと思うけど・・」
「そうだな・・・・・・」




 カイルは思っていた。
 池の主がいなくなる。その後はどうなるのか・・・・
 きっと、池の主の後継者(後継魚?)を捕まえに行くのだろうな。
『はあー、いい竿とたも網を用意しておくか。そうだ、池の主候補も事前に調べさせておこう』





「陛下、どこの池に大きな魚がいるか調べさせていらっしゃるとか。」
 イル・バーニのあきらめきった声がする。
「そうそう、最近王宮工房も忙しそうですが・・・」

 なんとでも、言え。
 あの魚が捕まるまで、ユーリは寝所でも魚のことばかり言っていた。
 あんなことは、もうたくさんだ。

 賢帝といわれる私だ。これぐらい先のことを見通してなくてどうする。
 ふん





「じゃあ、新しい池の主を捕まえに行こうか?」
 泣きじゃくる、マリエとシンにユーリが言っている。
 ピアは今度こそ自分が捕まえるのだと張り切っている。
 そらみろ、思ったとおりだ。
 竿にたも網、事前に調べておいた池の地図を渡す。
「気をつけて行っておいで」
「わあ!、とう様ありがとう!。」
「頑張って、捕まえてくるね。さあ行こう」
と意気揚々と出かけていくユーリと子供たち。


 城壁の上から、手を振って見送る。
 早く捕まれ。次の池の主よ・・・・・

 ん? 一人足りないぞ?。
「父上!、皇妃ともあろう者があのかっこ、よろしいんですか?」
 わっ! 脅かすな、デイル。お前はなぜここにいる?
「父上は母上に甘すぎます。”ダメなことはダメだ”とびしっと言わないと」
「・・・・・・・」
 魚と違って捕まえに行かなくても、私にはしっかりした後継者がいる。
 うれしいよ、デイル、ほんとうに・・・・・・







 池の主が捕まった。毎日平穏な日々が過ぎていく。
「ねえ、父様見て。またおっきくなったと思わない。」
 マリエが私の腕を引っ張る。シンがわたしの背中に乗っている。
「ああ、そうだな」と一緒に池を覗き込む。
 池の主は悠然と泳いでいる。

 前の池の主なら、わたしの姿をみれば必ず水をかけてきたのに・・・・。
 なんとなく物足りないのは、どういうわけだ?ぼんやり池をみつめていた。

「カイル、物足りないの?」
 ユーリの声に、はっとする。
 いつのまにか、子供たちは姿を消していた。
「結局、カイルとあの魚って仲良しだったのよ。」 
 ユーリの手が私の背中に回され、胸に顔を埋めてくる。
 ん???
 ユーリが小さな声でつぶやいた。
「ねえ、私があの魚にヤキモチ焼いていたのを知ってる?」
「はあぁぁ?」
 ヤキモチ? ユーリがあの魚に?
「だって、本当に楽しそうだったんだもん。私にもあんな顔してほしかったわ。」
「なに言ってるんだ。」
 顎に手をかけ上を向かせキスをする。
 ユーリを抱きしめながらカイルは思った。
 二人とも、あの池の主に焼き餅を焼いていたってことか?




 あの池の主は、今頃ネルガルの池でふんぞりかえっているかもしれない。
 ラブラブのヒッタイト皇帝夫妻に焼き餅をやかせた偉大な魚として・・・・・


         おわり

      

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