でろでろサマー



 日が高くなってきたのかも知れない。
 あきらかに気温が上昇している。
 私は半分汗だくになりながら惰眠を貪っている。
 腕の中にはユーリを抱えて。
 暑い・・・だがもう少しこうしていたい。
 不意に肌の上を風が通る。
 おっ、なかなかいいぞ。
 と思うと風が止んだ。
 なんて気が利かないんだ?
 ユーリがぶつぶついいながら寝返りを打つ。
 う〜ん、暑い。おまけに喉も渇いたし。
 また風が吹き込んだ。
 汗が一気に引くようだ。
 いいぞ、このまま・・・
「ねっ?」
「そうだね」
 ごくごく小さなささやき声を私の耳は捕らえた。
 ・・・なんだ?
「だめだよ、邪魔しちゃ。ハディに叱られるから」
 そうしてパタン、という小さな音と共に風が止んだ。
「!!!」
 私は寝台の上で飛び起きた。
 声のした方を振り返る。
 そっちにあるのは廊下に続く扉だ。
 どういった状況なのか瞬時に理解する。
 つまり風が吹いたのはその扉が開かれたからで、扉を開いたのは上の二人の息子であるらしい。
 どうやら息子達は私たちの様子を窺っていたようなのだ。
「おい、ユーリ起きろ」
 私はすでに昼に近い日差しの差し込む寝台の上で素肌にシーツという何とも悩ましい姿で眠るユーリを揺り動かす。
「・・・ん・・・どうしたの、カイル?」
 たっぷり睡眠を取ったからなのか、満ち足りた表情でユーリはのびをした。
 腕を思いっきり伸ばすと、シーツがずり落ちて身体のラインが露わになる。
「・・・今、デイルとピアが覗きに来たぞ」
 誘惑から意識を逸らしながら私はぶっきらぼうに言った。
「え・・?そうなの?もうそんな時間?」
 ユーリはシーツを大胆にも引き剥がすと、あたりを見まわした。
「・・・なにをしてるんだ?」
 膝を着いてかがみ込む姿は誘っているとしか思えない。
 こうやって明るい中で見るのも格別だな。
 無駄のない身体の線や、白くすんなりと伸びた手足。
「服、どこにいったのかな、って・・」
「多分、入り口のあたりだ」
 昨夜は効率よくベッドに到着する前に脱がしたのだった。
 明け方までかかって燃焼し尽くしたはずの炎がまたちらちらと立ち上がり始める。
「あ、ホント」
 寝台から飛び降りたユーリの後を私も追う。
 大丈夫、息子達はどうやら気を利かせてくれるつもりらしいし・・
 扉のそばで衣装を拾い上げたユーリを後ろから抱きしめる。
「カイル・・・」
「着るのか?」
 耳元に熱を吹きかけるように囁く。
 ユーリの指からぱさりと布が落ちる。
 「おはよう」のキスより濃厚な口づけをかわし合うと、腕に重みがかかる。
 ふむ、夏休み二日目の出だしはなかなかいいな。
 その時、またしても風がさっと私たちの身体をなぶった。
「あっ兄さまの嘘つきぃ、父さまも母さまも起きてるよぉ!」
 扉の隙間から、くりくり黒い瞳が覗いた。
 多分ハディに編んでもらったのだろうお下げが一つ、肩に下がっている。
「マ、マリエ」
 咄嗟に身体を隠そうとしたらしいのだが、ユーリの衣装は床に落とされたままだ。
「え、だってさっきは・・・」
 そしてデイルの声と共に、無邪気なマリエよりは少し分別(?)を身につけた顔がのぞき込む。
「と、父さまっ!」
 そこで赤くなるな、デイル。こっちだってどう反応すればいいのか困るじゃないか。
「デイルもマリエも早いのね」
 どう考えたって昼に近いのに、ユーリが間抜けた事を言った。
「もう、朝ご飯食べたよ」
 マリエ、いいからあっちに行きなさい。
「今日はね、マリエも泳いでいい?母さまも泳ぐんでしょ?」
「あたりまえだよ、マリエ。お二人は準備中なんだからあっちで待とう!」
 デイルがマリエを引っぱる。
 マリエのいなくなった隙間から、今度は明るい色の髪が覗いた。
「あ、ホントだ!ピアも脱いでこようっと!」
 パタンと扉が閉まった。
「〜〜〜〜〜〜!!」
 真っ赤になってへたり込んだユーリを抱き上げながら、私は大きなため息をつく。
 今日も家族サービスか。
 そういえば、マリエはまだ泳げなかったな。
「今日の予定は決まったな」
 うつむいたままのユーリの髪をかき混ぜる。
「家族揃っての水泳大会と、お昼寝」
 それから、と耳に唇を近づける。
「二人で泳ぐのは夜になってから」
「?」
「シーツの海で」
「・・・馬鹿・・」
 笑ったユーリを一度だけ強く抱きしめる。

 さて、夏休みを楽しもう。


                              おわり

     

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