星に願いを −メーテルなウルヒ−

                    by ferreさん

 星降る夜の出来事・・・・。 
「姫様、わたしはここで見張っております。さぁ、早く。」
 侍女は周りに誰もいないのを確認し、押し込むようにナキアを部屋に入れた。
 中には金髪碧眼の少年が、突然の夜の訪問者に驚きを隠せない様子で立っている。
 ナキアは息を整えながら、手にしていたたくさんの首飾りや腕輪などを足元に投げ出した。
「ナキア様?これは・・・!?」
 金髪碧眼の少年、ウルヒは目の前で起こっていることが理解できないでいた。
 長い間、言葉さえ交わした事のない姫が目の前で、しかもこの国から連れて逃げてと演歌のような事を言うのだ。
「わたしはおまえの子なら産める。おまえと暮らせるなら王家の身分も側室の地位もみんな捨てる!」
「ウルヒ!!」
「・・・できません。」
「わたしはあなたに御子も女性としての幸せもさしあげられません。」
「ウルヒ!!」
「わたしは・・・宦官ですから」
「なぜ・・・」
「・・・見てくださいっナキア様! これが本当の・・・本当の私ですっ!!」
 そう言うとウルヒは意を決したように黒いローブをバッと広げた。
 蝋燭に照らし出されたウルヒの真実の姿に、ナキアはしばし言葉を失った。

「な・・なんなのよ、これはーーーっ!!!」
 ナキアはこぶしをブルブルと震わせた。
「ひ、姫様!何事ですか!!」
 外で聞き耳を立てていた侍女がナキアのあまりの剣幕に思わず扉を開けて入ってくる。
「無いのよっ!あるべきところに無いのよーーーっ!!」
 侍女はナキアが指差した方角を見る。
「まぁぁぁぁ・・・・。本当ですわぁ。」
 口元に手を当てつつ、しかし、覗き込むようにまじまじとウルヒの大事な(?)場所を見つめた。
「でも、なぜこんなことに?」
「モノがあったらこんなに驚かないわっ!」
 あっても多少は恥じらい程度に驚いて欲しいものだ。
 しかし、侍女も動転しいてるらしくその言葉に賛同する。
「そうですわね。わたしもびっくりいたしましたわ。・・・それにしてもナイですわねぇ。」
 さらにまじまじと見つめた。
「ナイのよっ!!」
 二人に凝視されていたたまれなくなったウルヒが口を開く。
「実はわたしが生まれたのは・・・。」
 ウルヒは今までの全てをナキアに語ったのであった。
 
「・・・なんということっ!」
 ナキアはがっくりと崩れ落ちた。
「姫様・・・!」
 侍女は初めて見る主人の気落ちした姿に驚いていた。
 ナキアに使えて十ウン年。こんな姿を見るのは初めてだったのだ。
 やっぱり姫様も人並みの心をお持ちなのだわ。と侍女がナキアの肩に手を触れようとした時、
「な・・なぜなのよぉっ!」
 震える身体から絞り出すような声が聞こえた。
「ひ、姫様・・・?」
 地獄の底から聞こえたような声に驚き、おもわず後ずさりをしてしまった。
「・・・バビロニアから追い出され、おいぼれじじぃには食い物にされて・・・」
「まぁ、追い出されたとは人聞きが悪いですわ。」
 お優しいバビロニア国王の事を思うと口を出さずにはいられなかった。
「追い出されたも同然ではないかっっ!!」
 きっ!と面を上げ、侍女を睨み付けた。
 あぁ、やっぱりいつもの姫様だわ。そうよね、うちの姫様がそんな殊勝なわけないわよね。
 侍女は考えを改めなおすと、深いため息をついた。
「その上・・・その上っ!」
「初めて好きになった男の元に来てみれば、ピーッ!がない上に、他の男に強姦されているとはっ!」
「はぁ〜、つくづく姫様って女の幸せから遠ざかっていますのねぇ〜。」
 侍女は首を横に振りながら、我が主人の身の不幸を嘆く。
「おだまりっ!おまえも似たようなものではないかっ!」
「まぁ、わたしの幸せはこれからですっ。姫様と一緒にしないで下さい!」
 侍女はぷいと横を向いた。 
「こうなったら当初の目的を果たすまでよっ!」
 ナキアはすくっと立ち上がる。
「当初の目的・・・ですか?」
 当初の目的はみごと無くなってしまったのに・・・と思ったが口に出すのは止めた。
 なんとなくウルヒの前でそれを言うのは ウルヒに対して可哀想だったからである。
「そうよ。バビロニアであの時、あの星に誓ったことを!」
「・・・何かございましたっけ?」
「必ず皇子を産み、タワナアンナになって、私の・・・バビロニアの血をヒッタイトに残してやると誓ったのよ!!」
 全てを吹っ切ったかのように天井を見上げた。
「でも、姫様。もうヒンティ皇妃様がタワナアンナでいらっしゃいますけど。」
「かまわぬ!どんな手を使ってもタワナアンナになってみせるのよっ!!」
「はいはい、そうなさいませ。そうですわね、もぅ姫様の青春も終わったようなものですから。」
 侍女は(また、我侭がはじまったわ。)と半ばあきらめて、足元に散らばる宝石類を拾い始めた。 
「うるさいっ! まず、手始めにおいぼれじじいの元にゆくっ!」
「今から陛下の元にですか?」
 また、何をいきなり言い出すのか? というような顔でナキアを見上げる。 
「少し口が臭いががまんして、みごと皇子を孕んで他の者どもを蹴散らしてくれるわ!」
 既に次なる目標に向け、鼻息が荒くなっている。
「でも、今日はお召しの日ではございませんけども。」
「ええい! 一服盛ってでもなんとかするのよっ!!」
「一服って、そうゆうことは姫様がお得意じゃございませんか。」
「ふむ、そうだわね。じゃあ、薬を調達しに行くわよ。」
「今からですか〜。」
「そうよ。これからの時間が材料が取れやすくなるのよ!。」
 どんな材料だが考えたくも無いが、「行くわよ」と言うことは自分も調達部隊に入っているのだろう。
 涙目になっている侍女をよそに、ナキアはウルヒに向かって言った。 
「そうだ、ウルヒ。その宝石を私の部屋に持っておいき。」
「わたしですか?」
「おまえ以外に誰がいるのよ。これからわたしの下で存分に働いてもらうわっ!
 なにせわたしの青春を奪ったのですからねっ!」
 先ほどまでのウルヒに対してのしおらしい態度は、遠い星空の彼方に吹っ飛んでいってしまったらしい。
 代わりにバビロニアの凶星が彼を支配する事になったのだ。
「さぁ、行くわよっ!」
「で、でも。」
「何をぐずぐずしているの。早いとこ手を打たねば、そのうちにじじいが枯れてしまうじゃないのっ。
 ただでさえ、下向きなのにっ!」
 およそ15〜6の少女が言う言葉にしては過激な発言だったが、そんなことを気にする様子も無く侍女の首根っこをつかみ、ずるずると引きずってウルヒの部屋を後にした。

 ウルヒは野望に燃えたナキアの後姿を送りつつ、「青春を奪われたのは私なのに。」と
 前を隠すことも忘れて立ち尽くしていた。

               おわり

     

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