しーなさん奥にて36000番ゲットのリクエストは「幸福なザナンザ」・・・なんとなくオスカー・ワイルドを思いだしてしまいました。


夕刻



「おじちゃま、これに書いてね!」
 大きな葉っぱを手渡しながら、ピアが言う。
「お願い事書くとかなうんだって!」
 デイルの言葉にサイボーグ・ザナンザはかすかに眉根を寄せた。
「お願い事、ですか」
「あたしの生まれた国ではね、年に一回七夕の夜に笹の葉にお願い事を書いた短冊を下げておくのよ」
 笹に見立てた若木に短冊代わりの木の葉を結びつけてユーリが説明した。
「七夕っていうのは空に住んでいる織り姫と彦星が年に一度だけ会える日なの」
「どうして一回だけなの?」
「二人は恋人同士で、お互いに夢中になって仕事を忘れてしまったからなんだって」
「ふ〜ん、かわいそうだねえ」
 賑やかに七夕飾りを作っている親子を眺めながら、サイボーグ・ザナンザは自分の願い事はなんだろうと考える。
「ピアってば『デイルにいさまみたいになりたい』だって!」
「読んじゃだめ!」
 笑っている兄につっかかろうとするピアをユーリが慌てて抱き上げる。
「どうしてデイルみたいになりたいの?」
「だって、にいさまお馬に乗れるんだもん」
 頬を膨らませてピアは言う。
 専用の子馬を与えられたばかりの兄が羨ましいらしい。
「デイルは『父さまみたいに戦車に乗りたい』?」
「戦車だけじゃなくって剣も弓もとおさまみたいになりたいの」
 デイルは顔を紅潮させて胸を張った。
「ぼくは父さまみたいな立派な皇帝になるんだ」
 その姿が幼い日の自分たちに重なって、サイボーグ・ザナンザは目をすがめた。
 あの頃、幼い二人はいつも大きくなったらなにになるのか言い合っていた。
 あの時のカイルも、今のデイルの同じように少し誇らしげだったものだ。
 今やそのカイルを賢帝と呼ばない者はない。
 そして自分は・・・
「あら、ピアこっちにもあるのね・・・『ザナンザおじちゃまみたいになりたい』」
 ユーリの声に引き戻される。
 ユーリの腕の中のピアと目が会うと、自分と同じ色の瞳が恥ずかしそうにうつむいた。
「だって・・・にいさまがとおさまみたいになるなら、ピアはおじちゃまみたいになるの。
とおさまはいつも『お前はどう思う、ザナンザ?』って訊くもん」
 ユーリの胸に顔を埋めながら、小さい声で言う。
「とおさま、おじちゃまのこと大好きだし」
 丸くなってしまったピアを見下ろして、ユーリは柔らかに微笑んだ。
「とおさまはピアのことも大好きよ?」
「ピアって馬鹿だなあ」
 デイルがあきれたように言った。
「そんなのお願い事に書かなくても、ぼくが皇帝になるときはピアだってそばにいなきゃいけないんだよ?だって・・片腕・・って言うのかな?そんなのになるんだよ」
 同意を求めるように、サイボーグ・ザナンザを見上げる。
「それにボクだってピアのこと、大好きだから」
 いまだ丸くなったままのピアにサイボーグ・ザナンザはそっと腕を伸ばした。
「私も、ピア皇子のことが大好きですよ」
 ユーリの腕から受け取ると、柔らかな髪を撫でつける。
「おじちゃまはどんな事書くの?」
 やっぱり小声でピアが訊ねた。
 あの頃、迷わずに応えることが出来た答えを、サイボーグ・ザナンザは口にする。
「『兄上のお役に立ちたい』ですよ」
 幼い頃の望みはかなえられたのだろうか。
 幼い者の瞳に、今の自分がその姿で写っているのだとしたら。
「とおさま、遅いねえ」
「そうね、日が暮れる前に飾り付けをすませたいのに」
 伸び上がったデイルが顔を輝かせた。
「ね、足音がするよ!父さまのお願いってなんだろうね?」
 椅子から飛び降りて廊下に走り出すデイルを見送りながら、サイボーグ・ザナンザはそっと木の葉に書き付ける。

『いつまでもみんなが幸せに暮らせますように』


                        おわり
  

     

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