「皇帝ならびに皇后両陛下!!お喜び下さい、皇孫殿下のご誕生です」
 侍従が駆け込んでくる。
 祈るように座っていたカイルとユーリは、飛び上がった。
「う、生まれたのか!?」
「本当に!?」
 両手を握り合ったまま、確かめる。
「はい、母子共に健康です。おめでとうございます!!」
 歓喜の声がわき起こる。皇帝の皇統はこれでますます安泰だった。
「なんか、信じられないな・・あたしもついにおばあちゃんか」
「おまえはいつまでも若々しくて、美しいぞ」
「カイルだって、いつまでも格好良くて素敵よ」
 うっとり視線を交わす。カイルの指がユーリの頬を撫でた。
「出会ったときのままだな、おまえは」
「カイルは少し変わったかしら」
「ああ」
 言いながら、口づける。
「始めて出会ってから、日に日におまえを想う気持ちは強くなっている。今、私がどれだけおまえを愛しているか知っているか?」
「・・・カイル・・・」
「皇孫殿下をご覧にならないのですか?」
 イル・バーニがぬっと顔をだした。
 ユーリの腰に腕をまわして今にも抱き上げそうだったカイルは、むっとした。
 が、我にかえる。
「そ、そうだな。初孫を見なくては。それに、大仕事をした皇太子妃もねぎらわなくては」
「そうよね、お産ってタイヘンなの。思い出すなあ」
 始めた抱き上げた我が子がいまや人の親になった。
 ユーリの大きな黒い瞳は潤んだ。
「そうだ、そのタイヘンなお産で、おまえは私の子を産んでくれた。ありがとう、ユーリ」
 カイルが、ユーリの手を取り、手のひらに口づける。
「愛しているよ・・・」
「カイル・・・あたしも・・」
「皇太子妃殿下も、もう両陛下のおいでをお待ちになっておられます」
 やっぱりイル・バーニが割って入った。
 ユーリのあごを捉えて今にもキスしそうだったカイルは、ふたたびむっとした。
が、気をとりなおす。
「う、うむ。いつまでも待たせておくのも気の毒だしな」
「そうよね、堅苦しいことは早く済ませて休みたいでしょうしね」
 昔を思い出したのか、ユーリも同意した。


「両陛下、おいでいただき光栄です」
 デイルがひざをついて迎える。
 父親になった喜びに、頬が紅潮していた。
「良くやったな、デイル」
「本当に、良かったわ」
 二人は満足そうにうなずくと、寝台に身を横たえた皇太子妃の方を見る。
 人生最良の出来事のために、皇太子妃の表情は輝くばかりに美しかった。
 長時間の苦痛のために、少し腫れたまぶたまでが美しい。
「どうぞ、その言葉は妻へ」
 導くデイルの表情も誇らしげだ。
 さっと、妻に歩み寄ると、背に腕をまわし上体を支える。
「ほんとうに、ありがとう」
「私たちに初孫を与えてくれたな」
 カイルもユーリも、寝台のそばに置かれた椅子に腰を下ろした。
「陛下、どうぞご覧になってください」
 言うと、皇太子妃はかたわらに置かれた布の包みをそろそろと取り上げる。
 一度いとしげにのぞき込むと、そっとカイルの腕に差し出した。
「おお!!」
 始めて抱く孫の重みにカイルは、声をあげた。
 無心に眠る表情に、目尻を下げる。
「まあ、なんてかわいい!!」
 のぞき込んだユーリもたまらず手を伸ばす。
「ああ、かわいい。見ろユーリ。この黒髪、この肌の色。おまえにそっくりだ。きっと、この子は大きくなったら、おまえに負けないくらいに美しくなるぞ」
「そうかしら、この額の形、とおった鼻筋。カイルにそっくりだわ。きっとこの子は大きくなったら、あなたに負けないくらいに強くて格好良くて賢くなるわ!!」
 眠る赤ん坊の頬にそっと触れると、小さな瞳がうっすらと開いた。
「ユーリ、おまえと同じ黒曜石の瞳だ。この子は将来、おまえと同じくらい知性にあふれた人物になれるぞ」
 赤ん坊が口をいっぱいに開いた。泣き声が始まる。
「ああ、カイル。この声!なんて澄んで美しいの。この子は将来、あなたと同じくらい歌が上手くて素敵な声になるのね」
 ふたりの成りたてじいさんばあさんは、互いに見つめ合いながら、孫をあやしはじめた。

「・・・・」
 その様子を見ていたのは、二人。
「・・・良かった。お義父さまもお義母さまも喜んでくださって・・・」
 複雑な表情のまま皇太子妃がつぶやく。
「ああ・・・だけど・・」
 デイルもうなる。なにか・・・ちがう。
「カイル・・・あたし、なんだかまた赤ちゃんが欲しくなっちゃった」
「おまえの望みを私が叶えなかったことが今まであったか?」
 初孫を抱えたまま、うっとりと初祖父と初祖母は抱き合った。


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