夏の名残り
by 夏休み屋マリリンさん
「ユーリはどこにいるのだ?」
私は書記官に尋ねた。書記官たちは顔を見合わせている。
どうやら、誰も知らないようだ。
ここ2日ほど、「お仕事が終わらないの」と言ってユーリは執務室に遅くまで籠っていた。
今朝は早くに寝所を出たようで、私が目覚めたときには、すでにその姿はなかった。
『そこまでしなくてはならないほど仕事があるなんて』と、今日こそイル・バーニに文句を言おうと思っていた。
なのに、執務室にユーリの姿はない。
と、いうことは仕事の量が多かったのではなく、早く片付けようとしていたということか。
ユーリが一生懸命仕事をするときのパターンは、大体限られている。
クリスマスやお正月前などは特に力が入る。
この時期は何があっただろうか。
さまざまな『日本の行事』を思い返してみるが心当たりはない。
ということは・・・・
脱走か!?
私は、立ち上がると執務室の扉に向かって突進した。早く見つけなくては・・・・・
慌てて止めようとした書記官を、鋭いまなざしで威嚇する。
「おや、陛下どちらへ?」
扉をあけると イル・バーニが立っていた。
そこをどけ!と私が言う前にイル・バーニが言葉を続けた。
「皇妃陛下ならば、本日の仕事は終わっておられます」
そう言いつつやんわりと、私を押し戻す。
「今日はピア殿下とご一緒に過ごされるそうです」
「? ピアがどうかしたのか?」
「夏休みの宿題がいまだ終わっておられないそうで・・・」
イル・バーニが苦笑する。
「今日はピア殿下に一日中つきっきりで宿題をおさせになると聞いております」
力が抜ける。しかし去年までこんなことはなかった。
「デイル殿下はこつこつと宿題を片付けておられましたが、ピア殿下は遊びすぎたようでございます」
そういえば、ピアは今年から宿題があるようになったのだ。
王宮中庭の池のほとりで毎日とと丸と遊んでいた姿を思い出す。
今頃はつきっきりで宿題をやらされているのか。
かわいそうな気もするが、同情はしない。
おかげで、私は一人で仕事に励まなくてはならないからだ。
うんざりする仕事も時々ユーリと視線を交し合うだけでかなり気分的に違うのに・・・
ため息が出る。
「来年は、早めにピア殿下が宿題を終わらせてくださるとよろしいですな。」
まったくだ。心の中でつぶやきながら、私は書簡を手にする。
仕事が終わったら様子を覗いてみるか。
このとき、私まで宿題を手伝わされることになろうとは、まったく予想していなかった。
ピアの様子を覗いたことを後悔することになるのは、この後のことである。
おわり?
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