どくどくオータム



「カイルっ!見て、すごいでしょう!?」
 少々ばてぎみの私の前にユーリが駆け込んでくる。
「・・・」
 私は山積みの書簡の中から顔を上げる。
「お帰り、ユーリ」
 未決済のタブレットを押しやって引きつった笑顔を作る。
「すごい量だね〜」
 なにしろ皇妃の処理しなくてはならない分まであるからな。
 バタバタと子ども達が後に続く。
「とっても良いお天気だったよ!」
 デイルが顔を輝かせて言う。
「楽しかったぁ!」
 ピアが執務机に手をかけて飛びあがる。
「そうか、楽しかったか・・・」
 一人で留守番はまったく楽しくなかったぞ。
「とってもすごいのよ、とおさま!」
 マリエが頬を紅潮させている。
「ウサギがいたんだよ!」
 マネなのか、シンが床にしゃがんで跳ねる。
「・・・楽しかったんだな」
 私と違って。
「ごめんね、カイル。でもお土産があるのよ」
 一日自然の中で羽根を伸ばしてきたユーリが、申し訳なさそうに言った。
「そう、ピアが見つけたのっ!」
「すごいんだから」
「にいしゃま、すごい!」
「本当にね」
 子ども達が一斉に騒ぎ出す。
「・・・なんなんだ?」
 私はようやくユーリの後ろの白い布を被せたものに目をやった。
 今朝、ユーリ達について行った衛兵が二人がかりで重そうに抱えている。
「茸狩りに行けなかったから、カイルに、って」
 ユーリが微笑んだ。
「そう、焼いて食べようと思ったんだけどね」
「とおさまのお土産にしようって」
「とっても綺麗なのよ」
「にいしゃま、すごい!」
 まてまて、なんのことだ?
 私は立ち上がると、『お土産』のそばに近づいた。
「いったい何をくれるんだ?」
 ユーリと子ども達は顔を見合わせて笑った。
「じゃ〜〜〜ん!」
 かけ声と共に布が取り払われる。
「カイルへのお土産っ!」
 私は・・・絶句した。
 こんな巨大なモノは見たことがない。
「ね、すごいでしょ?」
 ちらりと見ると、三姉妹が気まずそうな顔をあわてて背けるところだった。
「・・・すごいな」
「とおさま、嬉しい?」
 期待に満ちたピアに、力無く笑いかける。
「おまえが見つけたのか、ピア。ありがとう」
 こんなに嬉しそうな顔をしているんだ、他のことがどうして言えよう?
「良かった!カイルが喜んでくれて」
「とおさまだったらきっと気に入るって思ってたよ!」
 ひとしきり盛り上がった後、ユーリが言った。
「さ、お仕事の邪魔しちゃだめよ。
みんな帰ってきたばっかりなんだからお風呂に入りましょうね?」
「は〜〜いっ!!」
 子ども達は元気な声で返事をすると飛び跳ねるように部屋を後にした。
「じゃあね、カイル」
「ああ、ありがとうユーリ」
 ・・・・
 後にはソレが残された。
「しかし、すごいものですな」
 イル・バーニがつくづく感心しながら頷く。
「たしかに」
 私はため息と共にソレを見た。

 高さは腿のなかほど。
 周囲はマリエなら一抱えというところか?
 ところどころにオレンジの斑点のある傘は紫色をしていて・・・毒々しい。
「これは・・・毒キノコだろうか?」
「まあ、食べない方がよろしいですな」
 強大なキノコを見ながらイルは頭を振った。
「せっかく皆さまが持ってこられたのですから、しばらく飾っておかれては?」
「そうだな」

 こんなものをもらっても・・・・困る。

 私はできるだけキノコを視界から閉め出しつつ、もういちど仕事の山に向かうしかなかった。


                           おわり
 

       

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