Heartless remarks

                                  byきくえさん


 朝の気配を含んだ空気に、カイルは目を覚ました。
 扉から僅かに伝わる音も、朝が来た事を物語っている。
 瞳を開いて目に映るのは、腕の中で寝息を立てている愛しい娘。
 ほんの数時間前まで艶やかな嬌声を紡いでいた唇はほんの少し開かれており、カイルはそれに誘われる様に輪郭を指でなぞり、唇を重ねる。
 たったそれだけのことだけれど、皇帝として国を支えるという激務の中では至福の一時であった。
 未だ目を覚まさないユーリだったが、ひとしきり満足したカイルはユーリを起こさないよう、寝台からそっと身を滑り落とす。

 手早くローブを羽織り、部屋を出ていこうとすると、僅かに身じろいだユーリの姿が視界の端に映った。
「う・・・ん・・・・・カイル?」
「あぁ・・・すまない。起こしてしまったか?」
 気だるそうに首を横に振るユーリに、踵を返して近づく。
 僅かに身体を起こしたユーリはシーツしか身につけておらず、それも横になっている時は肩まで掛けられていたが、今ではずれて白い肌が明るい日差しの下輝いて見える。

「おはよう、ユーリ」
 そのままベッドの端に腰を下ろすと、柔らかい微笑を浮かべながら、目を擦っているユーリの髪を優しく梳く。
 すると、ユーリはその腕に手を添えて、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「おはようのキスはしてくれないの?」
「・・・・・心得ました・・・姫君?」
 ユーリの言葉に、カイルも同じような表情をすると、さっきと同じように唇を重ねる。
 すると、いつもとは違ってすぐさまユーリの舌がカイルの唇を割り、カイルのそれを絡め取ってくる。
 最初は軽かったものが段々重みを増して、冷めていた身体に熱が再び醒めてきそうになる。

 ―――このままでは溺れる―――
 そう感じたカイルは唇を離すと、首に廻された手を解いてユーリを横たわらせ、掛け布を上げてやる。
「・・・・・お前はもう少し眠っていろ」
 そう囁いて再びベッドから離れようとするが、それは叶わなかった。
 ユーリの手が、ローブの袖を掴んだのだ。

「やだ・・・・・もう行っちゃうの?」
 そう言って見上げるユーリの顔は、昨夜悦楽の波に溺れていた時のように潤んでいる。
 それを見ると、カイルの中で何かが弾けた。
 無言でユーリを包むシーツを剥ぎ取ると、そのまま覆い被さる。
 顎を捉えて唇を奪い、夢中でユーリの中を味わう。
 ぎゅっと背中に腕が廻されるのを感じながら唇を解放すると、ユーリが切なそうにカイルの名を呼ぶ。
 そして、耳朶、首筋、胸元へ次々と唇を滑らせ、その度にユーリの口からはため息と共にカイルを求める声が上がる。
 うっすらとかいた汗が、朝日の中輝き、益々ユーリの肌を美しく彩る。
「あぁ・・・・・・カイル・・・カイル・・・・・・」
「・・・・今朝はいつもより多く、名を呼んでくれるのだな」
 普段よりややボリュームが高く、ずっと名前を呼びつづけるユーリに、カイルは嬉しそうに囁く。
「だって、これは・・・・・・・・・・・」
 しかし、カイルの問いかけに応えようとしたユーリの声は、遠くなっていった・・・・・・。



「・・・・・イル・・・・・カイル!」
 ・・・あぁ、煩い。ユーリの声がよく聞こえないではないか。
 これは・・・何なんだい、ユーリ?
「カイルってば!!」
 一際大きな声に、はっと目を開く。
 すると、今までわたしの腕の中にいたはずのユーリが、何時の間にか寝台の脇に立っていた。
 しかも、既に服を着て・・・・・・。
 ・・・・・・どういうことだ・・・・・・?
「んも〜、やっと起きた。早くしないと、会議に遅れちゃうよ」
「・・・ああ?ユーリ・・・・?」
「なあに?」
 わたしを見下ろすユーリを見て、段々と状況が飲み込めて来た。
 さっきまでのユーリは、夢だったのだ。
 白く輝く朝日が眩しい。
 ならば・・・・・・
「おはようのキスはしてくれないのかい?」
 正夢にしてしまえばよいのだ。
 多少、違う気もするが、この際何でも良い。
 きっとユーリは口付けをしてくれる筈。
 ユーリは何か思い出すように明後日の方向に視線を走らせた後、わたしを見てにっこりと微笑むと・・・・・

「カイルが眠ってる間にしたから、今日の分はお終いっ!」
「・・・なっ!」
 そ、そんなっ!!
 無情な言葉にショックを受けているわたしを尻目に、ユーリはさっと身を翻して部屋を出て行った。
「早くしてね」
 と、念を押す事を忘れずに・・・・・。
 パタンと閉じられた扉を、独り残された寝台の中から呆然と見つめる事しか出来ない。


 ―――だって、これは夢だもの―――
 ユーリの声が、聞こえた気がした・・・・・。



                 ちゃんちゃん♪

      

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