月より団子

                   by名月屋マリリンさん


「ねえハディ、今年はね、いつもと違うお月見にしたいの」
「と、おっしゃいますと?」

 ユーリ様が何かしたいとおっしゃるたびに、ドキドキ・ハラハラ
 瞳が子供のようにきらきらと輝いているときは要注意
 そこに日本の行事がかかわっているときは、もっと要注意
 波立つ心を必死に抑え、口元に微笑みを浮かべたつもりだがうまくいっただろうか。

「あのね。『月見泥棒』なの」
『???月見泥棒????』
 一国の皇妃が泥棒をしたいと?
 なんのために?
「お月見の夜に、お供えしてあるお団子やお菓子をもらってくるのよ。」
「はあ・・・・」
 いったいどこからもらってくるというのだろうか? 
 だいたい陛下にお願いすれば、それぐらいいくらでも手にはいるだろうに・・・・・・
「他の時はそんな泥棒みたいなことできないんだけど、この日だけは許されるのよ!」
 ユーリ様、その力強く振り上げた握り拳は、いったい何なんです?
「見張り役や取り役を決めてから出かけるのよ。連係プレーが大切でね。
ちゃんと決めておかないと収穫に差がでるのよ。」
 うんうんと一人で頷きながら話を進める姿に呆然とするしかない。
 どうやら、ユーリ様の頭の中には月見団子がぎっしり詰まった袋が浮かんでいるらしい。
 わたしは、そんなのものはほしいとは思わないが。
 渾身の力を込めて飲み下したひとかけらの月見団子の味を思い出す。
 口元がこわばっていくのが、自分でもわかる。
「ね、ハディ、双子も誘って行きましょうね。」
 はっと、気が付くと期待に満ちた瞳が私を見つめている。
「えっ、私たちもですか?」
 って、いったいどこへ行くんですか。ユーリ様。
 王宮だけですよ、お月見なんてしているのは・・・・



「やりたかったなあ。『月見泥棒』」
 しょんぼりと池のほとりに腰をおろし呟く。

 あそこのうちのお団子はおいしかったから、早く行かないとなくなっちゃてたよなあ。
 むこうのうちは、いつも豪華なお菓子だったからねらい目だったし・・・

 そんなことを思い出しながらため息をつく。

 あれこそ、お月見の醍醐味だったのに・・・・

 パシャ   と水音がする。
 とと丸?
 振り返っても、とと丸はいなかった。
 代わりに、水面でゆらゆら揺れる月が眼に入る。
 空を見上げれば大きな満月が・・・・・
 月が お団子に見える。

 これはかなり重症だわ。


 そっと遠くから心配そうに見守っているハディにも気が付かず、月をじっとみつめるユーリだった。


                                おしまい

     

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