ダッピ?

                                by夏の名残屋マリリンさん

「ねえ、かあしゃま。とうしゃまは、何になるの?」
 いきなりピアに聞かれたとき、私は何のことかわからなかった。
 なんと言ったらいいのかわからず、黙ったままピアを見つめる私にピアは言った。
「おじいしゃまになるの?えっと、えっとシュピュリリウマ?
 あれ?シュリピリウマ?あれ、ちがう」
「シュッピルリウマ1世?」
「しょう、しょれ」
 しょれって・・・・・
 なんで、カイルがシュッピルリウマ1世になると思うんだろう?

「とうさまがなんて呼ばれているか知ってるかな?」
「んーとね。ムルシリ2世」
「そうね。ピアはよく知っているわね。すごいわ」
 えっへん と得意そうな息子をとりあえず褒めておこう。

「とうさまはずっとムルシリ2世よ。シュッピルリウマ1世にはならないわよ」
「でも、かあしゃま。とうしゃま、“ダッピ”してるよ」
 “ダッピ”?
 “ダッピ”って?

「にいしゃまがいってたよ。“ダッピ”しておとなになるって」
 “ダッピ”しておとなになる?
「とうしゃまはもうおとなだから、こんど“ダッピ”したらおじいしゃまになるんでしょう?」
 ああ、“ダッピ”ってなに?

「ほら、かあしゃま。」
 ピアが見せてくれたのは、薄いひらひらした、小さいもの。
「とうしゃまがダッピしてたの。ピア お風呂で見つけたの」

 もしかしてこれって・・・・

「カイル、皮がむけてきたわね」
「ああ、今年はピアたちに泳ぎを教えていてだいぶ日焼けしたからな」
 歴代皇帝の中で、わが子に泳ぎを教えていた皇帝なんていないだろうな。
 そう言って二人で、笑ったんだったっけ・・

 ピアはカイルの背中を見て ”脱皮”していると思い込んでしまったらしい。

「ね、かあしゃま。ピアも”ダッピ”しているんだよ」
 ほら、と見せてくれた手のひらにはやはり薄いひらひらした、小さいもの。
「にいしゃまが教えてくれたの」
 なんとなく嬉しそうだけど?

「明日になったら、ザナンザおじちゃまになっているかなあ」
 その声は期待に満ちていて・・・・
「あのね、ピア・・・」
 言いかけた私の言葉が遮られる。
「ピアね。早く明日になるようにもう寝るね」
 いつもならなかなか寝ようとしないピアが、こんなにも勢いよく寝にいくなんて・・・・
 ピアの期待の大きさはわかる。
 わかるが・・・・・



 翌朝 
「あーーっ ピアのまんまだああぁぁぁぁぁ」
 という叫び声に深くため息をつくユーリの横には、やっぱりムルシリ2世のままのカイルがいた。

                         おしまい

     

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