ナッキー☆ダイナマイト

  これまでのおはなし

 バビロニア王女ナキアは、遠く離れた未開の地ヒッタイト帝国まで側室として嫁いできた。夫となるのは、父親ほどもとしの離れたシュッピルリウマ帝。わずか十五歳、花も恥じらう乙女ナキアはこのまま親爺のものになってしまうのか?いいわよ、カモ〜ン。私の美貌で後宮ナンバーワンの地位にのしあがってみせるわ。鼻息の荒いナキアはしかし、いまだ皇帝からのお呼びがかからなかった・・・



「どうなってるのよ!!」
 足音も荒くナキアは部屋の中を歩き回っていた。どちらかというと、後宮内では狭い部類に入るナキアの部屋では、バビロニアからついてきた侍女がひとり呑気に縫い物をしている。
「だいたい、皇帝には私のこの美貌が目に入らないの!?」
「姫さまレベルの方は、たくさんおられますからねえ」
 侍女は言うと、歯で糸を切った。ナキアは、きっと睨み付ける。
「私レベルって、どうゆうイミよっ!!私はバビロニアの王女なのよ!!」
「王女様も、他におられますしねえ・・藩属国の姫があふれるほど」
 縫い目を確かめるように布をかざした侍女の手からそれをひったくると、地面に投げつける。
「藩属国と我がバビロニアを一緒にしないで!!このまま陛下の寵がなければ私がこの国にきたイミがないでしょう!!」
 言いながら、布を踏みにじる。
「ああ、それ、姫さまの腹巻きなのに・・」
「私に腹巻きは必要ありません!」
 侍女は悲しそうな顔をした。
「お母様から、お腹だけは冷やさないようにと言われたのをお忘れですか?」
「どこの世界に腹巻きつけた寵妃がいるのよ」
「お言葉ですが、姫さまは寵妃ではありません。どころか、まだお渡りが一度も・・」
「きぃぃぃっ!!」
 ナキアは飛び跳ねた。足の下で腹巻きがびりびり音を立てる。
「私は皇子を産んで、バビロニアの血でこの国を支配するのよ!!おまえも侍女なら、どうすれば陛下のお渡りがあるのか考えなさい!!」
 侍女があわてて腹巻きを拾い上げる。勢い余ったナキアが椅子を蹴倒すのを恨めしげに見た。
「だって、後宮にはそれこそ選りすぐりの美しい方がおられます。なかなか若いと言うだけじゃ陛下の気はひけませんわ」
「若いこそ、価値じゃないの?見なさいこの、すべすべの肌!ぴちぴちの身体!初々しい態度!!」
「・・・・初々しい・・?」
 侍女は悲しげに首を振った。
「確かに姫さまは胸は大きいですけど、第二皇女のご生母様のあの思わず顔を埋めたくなるような見事な谷間にはほど遠いですし、御髪は美しいですけど、第三皇子のご生母様の油を流したようななめらかな艶にはかないませんし、お声もそれなりですけど、第五皇女のご生母様の透き通るお声に較べて・・・だいいち音程が少し不安定ですわね」
「お前は、私をけなしているのね!!」
 ばきっ!
 ナキアがテーブルに力任せに拳を叩きつけると、天板がまっぷたつに割れた。侍女は飛び上がり、腹巻きを抱いたまま部屋の隅に避難した。
「まあっ!?質実剛健なヒッタイトとか言いながら、なんてヤワにできてるの!?こんなものは私の部屋にふさわしくないわ!こうしてやる!」
 言いながらさらに拳を叩きつけ、足まで使って破壊する。
「ひ、姫さま。ふつう姫君は机を殴ったりなさいません・・だから机もそんなに丈夫にはできていないのでは・・」
 ぴたりとナキアの動きが止まった。
「おまえ・・・今、なんとお言いだい?」
「は?・・・机もそんなに丈夫にはできていないと・・」
「ちがう!その前!!」
「・・・ふつう姫君は机を殴ったりなさいません・・」
 ふいにナキアは笑い出した。部屋の真ん中に突っ立って、げらげらと。
「姫さま・・?」
 侍女がおそるおそる近寄ってくる。大丈夫かというふうに。
 涙まで流したナキアは唐突に笑い止んだ。
「それよ」
「は?」
「いったい、この後宮に素手で机を破壊できる妃が何人いるかしら?」
 姫さまのほかに、そんな凶暴な人がいるとは思えません、という言葉を侍女は飲み込んだ。失礼というよりは、自分の身を危険にさらさないためだ。
「・・・」
「私が、ほかの妃にぬきんでるには、これしかないわ。素手で一枚板を叩き割る・・・いいえ、手ぬるい。いっそ・・・額で割れたら・・・」
「ひ、姫さ・・ま・・・」
 侍女は、手の中で腹巻きがやぶれそうになるほど握りしめ呻いた。
「そうと決まれば特訓よ!!」
 
   ※  ※  ※  ※  ※

「さて、今宵の宴になにか余興はないかしら・・・?」
 皇帝の横で、ゆったりとヒンティ皇妃が言った。後宮での宴には、すべての妻妾が出そろっている。子をなしたわけでもなく、お手つきでもないナキアはかなり末席に近いところにいた。 ためらわず立ち上がる。
「・・・私が」
 一瞬、ざわめいた。
 いつもなら、歌自慢や舞自慢の、寵の深い妃が勧められて進み出るところだった。
「ほう?」
「ナキア妃は、バビロニアから来られたとか。さぞや、見事な舞か歌を披露して・・」
「私がお見せするのはそのようなありきたりのものではありません」
 柱の陰に控えた侍女に合図すると、侍女は嫌々ながら用意した杉の厚板を運び出した。「これを・・・割ってごらんにいれましょう」

   ※  ※  ※  ※  ※

 オプションとして目でクルミの殻まで割って見せたナキアが皇帝の寝所に召されたのはそれからほどなくしてからのことだった。
 力業を見せた若い姫に皇帝が興味を持ったのか、捨て身の戦法に不憫に思った皇妃がそう計らったのかは、いまだ謎だ。


                   おわり      

       

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