ぱたぱたオータム
by運動会屋マリリンさん
ヒッタイトでは、10月の体育の日は”戦車競争の日”になっている。
”運動会の日”にしたかったのに”戦車競争の日”になってしまった。
ため息をつく私に気が付かぬ振りをして、元老院議長が声を張り上げる。
「では、皇妃陛下からお言葉をいただきます。」
『なんで、私なのよ。皇帝陛下のほうがいいんじゃないの』と言いたいところだが兵士たちの前でそんなことは言えない。
去年と一緒のことしか言えないけれど、とりあえず・・・・・・
「正々堂々と。スポーツマンシップにのっとって。怪我に気をつけて。がんばってください。」
わかりやすくいうなら、この4点だ。
間違っても、一服盛ってはいけない。(とカイルの瞳が言っている。)
毎年つまらない。
何で、元老院の議員たちはあんなに熱心なんだろう。カイルでも出ていればもうちょっと興味も湧くけれど、
えっ?なぜ カイルが出ないかって?
出てたわよ。一年目はね。何しろ“ヒッタイト1”といわれていた人だし・・・
ううん、もちろん今でもきっとそうよ。でもね、応援しすぎちゃったのよ。
えっ?だれがって?私よ。
運動会に応援合戦があるでしょう?あののりで、ガンバレーって。
立ち上がって、腕を振り回して。
そしたらね。目立っちゃったのよね。思いっきり。
皇族や貴族の席でそんなことをする人っていなかったし・・・
唯一、私を止められる人は競技に出ていたわけだものね。
で、皇妃陛下をおとなしく坐らせておくために出場はしなくなったの。
ダンスなんて望んでいなかったけれど、せめて徒競走ぐらいはしたかったなあ。
結構足には自信あったんだけど。
そんなはしたないことはできないって、女性はだれも走らないのよね。
3姉妹も嫌がるのよ。なんで走ることが、はしたないんだろう?
まあ、あの長い裾で走るわけにはいかないだろうから、走るときの服装が問題なんだろうなって思ってるんだけど。
その他にも組体操とか、障害物競走とか借り物競走とか、いろいろ持ちかけたんだけどうまくいかなくてね。
どれも一回しただけで、終わったわ。
一番失敗だったのは、借り物競争かな?
借り物に“ユーリ・イシュタル”っていれてあったのよ。
だって、そうしたら堂々と出られるじゃない?
これを手にした兵士は、なぜかしばらく立ちすくんでいたわね。
その様子を見て近寄ったキックリまで立ちすくんでいたのよ。失礼しちゃうわ。
で、どうしたのかって? もちろん一緒に走ったわよ。だって競技ですもの。
勝たなくっちゃ。
でもね、あの後 あの兵士を一度も見かけたことがないのよ。どうしてかしら?
もうひとつ、不満があるの。それは、運動会には付き物の万国旗。
日本やアメリカ フランス イギリス
どこか知らない国の旗までいっぱいはためいているのを見ると、『ああ、運動会だあっ』って思えるじゃない。
これは、絶対はずせないって思っていたのに、だめだっていわれたの。
だけど、元老院もカイルも、あまりにも私が落ち込むのでしぶしぶ旗を揚げるのを許してくれたの。
嬉しかったわ。旗を見るまではね。
だって、”黄金のイシュタル”と”紅の獅子”がいっぱいはためいているのよ!
涙がでたわよ、もう。
なのに「泣くほどお喜びだった。」と思われたらしくって、毎年旗が増えている。
そっと、聞いてみたらみんなが持ち込んでくるんですって。ぜひ、お使いくださいって。
だから、最近”紅の獅子”のほうが多いのよ。
3姉妹は『ユーリ様の人望の現れですわ。』なんて言ってるけれど・・・・・
あきらめないわ。
デイルやピアがもう少し大きくなったら、子供たちを集めて”運動会”をするんだから。
ほら、目の前にそのときの様子が見えるようだわ。
空想のなかを漂っているユーリは気が付かなかった。
ちょうどその視線が優勝者をひたと見つめていたことを・・・・・
その夜の後宮は、3姉妹の盛大なため息に満ちていた(らしい)。
おわり
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