ダ・アーの受難

                         by 一蓮托生屋マリリンさん

『「ザナンザおじちゃまになれない」と駄々をこねているピアを何とかしてほしい。』
 皇妃陛下のお言葉を伝えると、女官たちはピア皇子を残して立ち去っていった。
 ありったけの不満をかき集めたかのように、頬がぷっと膨らんでいる。

 いったい、どう申し上げたら納得していただけるのか。

 ダ・アーはこめかみを押さえながら、お尋ねする。
「殿下、いったいなぜそんなことを思われたのですか?」

 自分がザナンザおじちゃまになるという発想
 なぜ、そんなぶっ飛んだ発想ができるのか。
 ダ・アーには理解不能だ。

 それに、なぜザナンザおじちゃまなのか?
 なぜ、デイルにいしゃまになるとは思われなかったのか?
 なぜ、ムルシリ2世になるとは思われなかったのか?

 そうだ。
 こんなにお小さいのに、ご自分の立場をお解かりなのかもしれない。
 皇帝の第2皇子という立場。
 皇族の中でも最高位に近いが、よほどのことがない限り皇位につくことはない。

 そう、思いついたときこの小さな皇子がとても愛しい者に思えた。
 が・・・・

「だって、おじちゃまになったら“ぼうしゅいかこう”ができるでしょ。
お風呂に入ったら“ビー”ってなるし。しょれからね、えっと“じちゃく”をあちゅめるの。」
「・・・・・・・・・・」
 脱力感に襲われる。よろめく足を踏ん張りピア皇子を見つめる。
 なるほど、そうだったのか。
 とてもわかりやすい理由だ。しかし、問題の解決の糸口にはなりそうもない。
 ますます頭が痛くなっただけだ。

 そんな私を、不思議そうに見つめていたピア皇子が、おそるおそるお尋ねになった。

「ザナンザおじちゃまになったら、ダ・アーは側にいてくれないの?」

 突然、頭の働きが停止したようで、言葉の意味が伝わってこない。
 その沈黙の時間をどう解釈されたのか、いきなり首に抱きついて泣きながらおっしゃった。
「おじちゃまになれなくてもいいから、ずっといっしょにいて。ピアといっしょにいて。」
「!!!」
「ねっ・・・お願い・・・」

「ええ、殿下 ずっとご一緒させていただきます。」
 思い切り抱きしめる。
 こんなふうに思っていただけるなんて・・・・

 問題はあっけなく解決した。





 はずだったのだが・・・・
 ああ、口は災いの元とはよく言ったものだ。
 私がこの一言を激しく後悔するには、そんなに時間を必要としなかった。




「ダ・アー そのお方は?・・・」
「ヒッタイト皇帝ムルシリ2世陛下の第2皇子であられる、ピア殿下です。」
 ご存知でしょう? 最後の一言は心の中でつぶやく。
 父が何を聞いているのか、本当は十分知っているけれど・・・・

 何しろここは、執務室。

「まあ、そういじめるな。イル・バーニ。」
 笑いをかみ殺した声が聞こえる。
「しかし、陛下」
「ダ・アーはずっとピアと一緒にいると約束したそうだ。」
 ひしっと、ピアにしがみつかれたダ・アー。
『早くなんとかしろ。』父の氷つくような視線を感じる。
 がどうすればいいのか。

「お風呂も一緒に入ろうね。」
 ピア皇子の嬉しそうな声が執務室に響く。

 災いの元の口は、ため息を漏らすしかなかった。

                        おわり

      

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