ホワイト・クッキング

                            by 降誕前夜祭屋マリリンさん


「クリスマスケーキだと?」
 どこか虚ろな表情でカイルが呟く。
 キックリが厨房から戻ってきた。
 朝から厨房にこもりきりのユーリの様子を窺ってきたのだ。


「はい、陛下。白いケーキだそうで・・・。」
 白いケーキ?
 いつも焼きすぎるほどよく焼いてあるチョコレートケーキを思い出す。
 もしかして今度のケーキは生焼けか?

「いちごをのせたいそうで・・・・」
 いちご? こんな時期にいちごがあるのか?

 エジプトみたいな暖かいところなら今の時期でもあるのだろうか?
 そう思ったとたん、頭の中に、いちごが山盛りになった篭を手に持って、にやりと笑うあいつが浮かんだ。
 腰に手を当てて、ちょっと足を開いて・・・・
 あいつの得意のポーズだ。
 慌てて、頭の中から追い出す。

「今の時期にいちごは無理なので、いちごジャムで代用されるようで・・・・」
 いちごなら食用だが、いちごジャムは食用になっているのだろうか?
 かなり、怪しいような気がする。

 赤と白の縞模様になったケーキが浮かぶ。
 なんだか、とても、すごくおいしそうな気が し・な・い かもしれない。

「で、どれぐらいの大きさなんだ。」
 このあと、正月 バレンタインと胃に負担の大きい季節がやってくる。
「これぐらいで・・」
 キックリの作り出す輪は案外小さい。
 少し安心する。
「ただ・・・・ ちょっと ・・・ その」

「どうした?キックリ」
 そんなに、言い渋るようなこととはなんだ?
 心臓のバクバクいう音が大きくなる。
「数が多いんです。」
 胸の痞えを吐き出すように言う。
「クリスマスケーキは好きな人にだけ食べてもらうものではないそうで・・・・」

 自分には関係ないと言う顔をしていた、イル・バーニ以下全員の書記官が振り向いた。

「みんなで、楽しく食べるものだそうで・・・・」
 全員の顔が凍りつく。
「今から持ってきてくださるそうです。」

「へ、陛下。」
 なんだ?沈着冷静なお前らしくもない。声が裏返っているぞイル・バーニ。

「クリスマスは家族で楽しく過ごしたいとおっしゃってみえましたな。」
「忘れたか?それを許してくれなかったのは誰だ?」
 じろりと睨みながら言う。
「やはり、皇妃陛下も望んでおられた事ですし・・・・・」
 後ろで書記官たちがあたふたとしながら片付けを始めている。
 なんというチームワークのよさだ。

「では、陛下。私たちはこれで失礼いたします。」
 皇帝より先に帰るとは無礼ではないか?
 不敬罪で処分してやろうか。

『♪ジングルベル  ジングルベル鈴が鳴る♪♪・・・・』
 ユーリの歌声が聞こえてくる。
 何度聞いても意味はよくわからないが、楽しそうなのはわかる。
 足は自然にユーリの元へ向かっていた。


 ヒッタイト幾千の神よ。ご加護を・・・・・


                     アーメン

     

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