ゆるゆるウィンター

                     byハマジさん


「マリエ、どうしてもおまえが鬼をやるのか?」
 父上が腕の中にいるマリエに甘々の声で聞いた。
「もっちろんですわ!もう準備も万全です!さあ、はじめましょ!」
 父上が戴冠式で用いたらしいマントが材料となっている虎柄の衣装を身にまとい、粘土で作成した小さな二つの角までつけて、やる気マンマンでマリエは頷く。
 侍従長は今年も泣いていた。心なしか後姿が小さく見えた。
 父上も毎年の責務からやっと開放されたと思ったのに、その代わりを勤めるのがマリエだとなると素直に喜べないらしい。
 僕だって喜べない。毎年父上だからこそ思いっきりアーモンドを投げつけていたのに
(別に恨みがあるわけじゃないよ。ただ、子供のころ雷が怖くておねしょしちゃったときに母上と一緒に寝たことを今でも根に持ってことあるごとに「おまえは7つになるまでおねしょをして・・・」って言いふらすのは止めて欲しいと思ってるけど。)、マリエが相手となるとそうはいかない。
 マリエにアザでもできたら大変だもの。
 ピアも僕と同じ考えらしく、毎年嬉々として豆まき(アーモンドまき)をしていたのに今日は戸惑い顔だ。
 とはいえ、鬼の衣装のマリエはいつも以上にかわいい。こんな鬼なら「鬼は外」じゃなくて「鬼は内」でもいいな。
 父上も衣装を着たマリエを見るまでは母上に「マリエが鬼だなんて・・・アーモンドをぶつけたりしたら泣き出したりしないだろうか?」とささやかながら抗議をしていた。
 マリエが鬼の姿で現れるとメロメロに甘い声をしながら抱き上げてたけど。
 あれ?そういえば母上は何処にいったんだろう?


「おまたせ〜!さ、豆まきしましょう!」
 現れた母上を見て驚いた!
 なにそれ!?寒くないの???
 母上は戴冠式用のマントの切れ端を胸元と腰に巻いているだけの格好だった。
 これってあれだよね?
 母上が毎年夏に離宮のそばの湖でこっそり泳ぐときに着てるあれだよね??
 僕はちらりと父上の顔を見上げた。
 案の定、口はあんぐり開いているのに鼻の下は伸びている。
「・・・なっ、何だ、ユーリ!その格好は!」
 鼻の下伸ばして怒っても無駄だと思うけど。
「え!初めての鬼役だから、張り切ってラムちゃんのコスプレにしてみたんだよ!似合う?」
 『らむちゃん』も『こすぷれ』も何のことだかわからない。
「お母さま!お似合いですわ!ステキ!」
「マリエもかわいいわ〜、さあ、カイル、デイル、ピア!思いっきり投げてね!」
 そういって母上は自分の着ていたマントを母上に巻きつけようとしていた父上を振り払って、マリエの手を取り、ふんぞり返った。
 そう言われましてもね・・・。
 ぶつけたりしたら後ろにいる方に後でなんて言われるか・・・。
 仕方ないので僕とピアはゆるゆるとアーモンドを床にめがけて投げ出した。
 間違っても母上やマリエに当てないように。
「鬼は〜そと〜」
「「きゃ〜〜!!」」
 楽しそうなのはこのヒッタイト帝国の事実上の支配者である母子の二人。
 僕とピアはへろへろとアンダースローでアーモンドを投げる。
 最高権力者であるはずの父上だけが自分のマントを握り締めたまま、まったく聞く耳を持たない愛妻と愛娘を鼻の下を伸ばしながら見つめていた。

 しあわせ?

               <終>

     

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