ふくはどこ?

                   by 節分屋マリリンさん


「きゃあ マリエ よく似合うわ。かわいい」
「ほんとうだ。マリエ かわいいよ。」
 どこか、ピントのずれたところで喜んでいないか、お前たち・・・
 ぐさぐさと突き刺さる、イル・バーニや侍従長の視線に気づかないお前たちがうらやましい。


 鬼になったマリエの姿を見た侍従長は卒倒せんばかりだ。

 踏み止まれたのは(卒倒しなかったのは)、ユーリと私の結婚以来(いや、王宮で暮らすようになってからか。)さまざまな困難をくぐり抜けた、彼だからこそだろう。
 敵(とはちょっと違うが)ながらあっぱれというべきか・・・・

 マリエの姿を見た侍従長は、すぐにマントを求めて突進していった。
 実は、侍従長がどうしてもマントを出さないので若い侍従に命じて出させたのだ。
 大切にしまってあったはずなのに、限りなく切れ端に近づいたマントを眼にした彼は、しばらく虚脱状態だったらしい。

 申し訳ないと言う気がしないわけではないが、皇帝たるもの一旦した約束を翻すわけにはいかないのだ。
 というのは言い訳で、本当はユーリの涙を私が見たくないだけだ。
 ユーリを泣かすぐらいなら毛皮の一枚や二枚 なんということはない。(だろう・・・・きっと たぶん)

 ユーリに言わせると”りふぉうむ”とか言って使わないものは、作り直して使うそうだが、皇帝の戴冠式用のマントは決して使わないものではない。
 いずれ、デイルが使わなくてはならないものなのだ。
 にもかかわらず、”りふぉうむ”だとユーリは言い張る。

「だって、デイルが使うまでに30年 ううん、もっとあるでしょ。だったら使わないのと一緒よ。」
 などと言われたらなにも言えないではないか。
「いや、いついるようになるかわからない。」などと言ったらユーリは泣いてしまうだろう。
 それは、私がいつユーリのそばからいなくなるかわからないと言っているのと同じことだからだ。


 思いっ切りアーモンドをぶつけられないと不満を言っていた息子たちもかわいい妹の姿にそんな不満は吹っ飛んだようだ。
 マリエのいないほう、いないほうへ向かってアーモンドを投げる。
 毎年、私にぶつけてくるあの迫力はいったいどこへいったのだ?

 それどころか、私が投げた方向へ逃げ込んだ形になってマリエに当たると、私にくってかかってくるではないか?
「マリエにぶつけちゃだめ!」
 マリエは、いったあいと言いながらも結構満足そうだったのだが・・・・・


 その夜、ユーリはマリエを労わってくると言って私の寝所には現れなかった。
 アーモンドをぶつけられることはなかったが、例年以上に犠牲が大きかったような気がする。

 一人きりのベッドのなかでぼんやり考える。
 明日になれば、侍従長の辞職願が届くかもしれない。
 頻繁に辞職していく料理長と違い今まで侍従長の辞職はなかった。
 新しい侍従長をどうやって探そうか? 
 いや、待てよ。新しい侍従長を探すより、マント用の虎の皮を手に入れるほうが簡単かもしれない。
 何しろ、デイルが即位するまでには時間がたっぷりあるのだ。
 それまでに、探せばいいのだ。


 この後も、きっとマントは”りふぉうむ”と称して形をかえていくことだろう。
 だけど、ユーリに「頑固」だとか「頭が固い」と言われている侍従長は変わるまい。
 その頑固さでユーリの行動を少しでも抑えてくれれば・・・・・


            ※※※※※※※※※

 今日も、ユーリと侍従長が何事か言い合っている。
 そういえば、バレンタインディも近い。
 私は二人に見つからないようにそっと引き返すことにした。
 が、少し遅かったようだ。
「カイル ねえちょっと聞いてよ。」
「陛下、陛下からもおっしゃってください。」


 後宮は今日も平和だ。

            ホントに?

     

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