オブラート・クッキング

              by 西洋菓子贈呈日屋マリリンさん


「今年はトリュフを作ってみたの。」
 母上の嬉しそうな声が響く。

「とっても苦労したのよ。だって、もうだいぶ前のことだから作り方を忘れちゃったところもあったし。」

 トリュフって食べるものなんだろうか?
 眼の前に転がっている(としかいいようのない)黒い小さな塊はなにか別のものを連想してしまって、口にするのも勇気を振り絞らなくてはならないような代物だ。(僕にはそう思える)


 母上の料理は完璧な材料を揃え、完璧な作り方がわかっていても、破壊的なものが出来上がる。


 なのに、作り方も定かではないなどと
 これは、もうどうしようもなく恐ろしいものとしか言いようがない。

 おそるおそる顔を上げれば、満面の笑みをたたえた母上の顔。
 そして、信じられないものを見たような顔をしたまま、固まっている父上の姿。
「父上、何とかおっしゃってください。」
 僕は、声をかけようとしたが思いとどまった。今口を開けば父上はとんでもない言葉を発しそうな気がしたから・・・・・


「カイル?」
 父上の姿を訝しく思ったのか、母上の笑顔が消えていく。
「どうかしたの? 具合が悪いの?」
 心配そうに覗き込む母上の顔が眼に入ったらしく、父上はようやく動き出すことに成功した。

 ぎこちない笑みを浮かべながら、「いや、なんでもない。」とは言うものの、視線は釘付けのままである。

「今年のは小さいから不満なの?」
「でもね、大きさよりも、どれだけ愛情を込めたかだと思うのよ。」

 母上、あなたの愛情を父上は疑ってなどおりません。
 疑っているのは料理の腕だけです。
 そう言ったらどうなるだろう。


「はい、カイル あーん」
 こんなに大きな息子が眼の前にいてもいちゃつくバカップルの両親などおいて、さっさと自分の部屋に引き上げたいがそうはいかない。少しでも父上を助けねば。
 母上が父上の口に放り込んだ黒い塊を渾身の力を込めて飲み下した父上に、すばやくワインを差し出す。
 父上は一気に飲み干すと母上に気づかれないようそっとため息をついた。

 まだ残っている、母上が『トリュフ』だと言うものを見る眼には、これ以上はないだろうと思われる切ない想いがあふれている。
 が、きっと父上はこの難題を”愛情”と言うオブラートに包みこんで、飲み込んでいくのだろう。


 ザナンザおじさんにコンポスト機能がついてからも、バレンタインのチョコレートだけはいつも父上のものだ。

                
                         おわり?

     

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