rinさん奥にて49000番のキリ番ゲットのリクエストは「しっとり系カイル&ユーリのバレンタイン」。もう過ぎてます。
St.Valentine.Day
小さな指先がマントの端をしっかりと掴んでいる。
カイルは苦笑するとしがみつくように眠っている身体を抱え上げた。
「絶対に起きてるって言いはって」
ユーリが声を潜める。
「父さまにどうしても渡したいからって」
ユーリの言葉に、カイルは服の端を握っているのとは別の手に握られたままのリボンのかかった包みを見る。
「遅くなってしまったからな」
ふわふわと揺れる黒髪を愛おしそうに撫でつける。
今朝は日の昇る前に発ったので子ども達に顔を見せてやれなかった。
見送りに出たユーリが首に腕をまわして念を押した。
早く帰ってきてね、今日はなんの日か知っている?
家族の中だけのささやかな、そして大切な行事。
それはユーリが生まれた国からこの家庭に持ち込んだ習慣で、いつの間にか皇帝家では大事な年中行事になってしまった。
あくまでも内輪だけのことだから重要な視察を後回しにするわけにはゆかない。
日付の変わらぬうちに帰ることがカイルなりの誠意だった。
まだユーリだけは起きて待っているだろうと確信して居間の扉を開いたら、敷物の上に座り込んだマリエが眠たそうな瞳を一瞬輝かせた。
「父さま、帰ってきた!」
驚くカイルに駆け寄って膝に取りすがると、マリエはにっこりと笑った。
「はい、父さま!バレンタインのプレゼント!」
それから大きなあくびを一つすると、ことりと首をたれた。
膝にしがみつくように眠ってしまった娘の姿に驚いて顔を上げると、これも困った表情のユーリが小さく肩をすくめた。
女性から好きな男性に贈り物をする日なの。
そう頬を染めてユーリが小さな包みを差し出したのは何年前のことだろう。
あれから家族も増えて贈り物は息子達と分けあわなくてはならないが、その分贈ってくれる娘もできた。
父さま大好き。
しがみつくマリエが頬に唇を押し当てる。
カイルにキスするのはあたしが一番最初のはずなのに。
その夜すこし拗ねた顔でユーリが言った。
ふわりとマリエを寝台に下ろすと、カイルはユーリを振り返る。
「お前からはないのか?」
ユーリの瞳がいたずらっぽくきらめいた。
「もう若くてかわいい女の子にもらったでしょう?」
大股で近づいて背中に回した腕を引きだすと、綺麗な包みが現れる。
出し惜しむようにユーリはそれを引き戻そうとする。
「お前だって他の男にやっただろう?」
言って逃げる身体を抱きしめる。
「あれとは違うの、これは特別」
腕の中でくぐもった笑い声を上げるとユーリはカイルの背中に腕をまわした。
「知ってるでしょ?」
見上げる顎をとらえて唇を重ねる。親しんだ柔らかさは、すぐにいつもと同じ熱を持つ。
息継ぎにほんの少し離れた隙に、かすれた声でささやく。
「どう違うんだ?教えてくれないか?」
そのままのしかかるように敷物に膝を着いた時、ユーリの手がカイルの胸を押しもどそうとする。
「だめよ、マリエが」
ちらりと明け渡した寝台を眺める。一房の黒髪がシーツの中からはみ出している。
規則正しく敷布が上下する。
「目なんて覚まさないさ」
今夜は随分頑張って起きていたから、今頃は夢も見ずに眠っているだろう。
片手にプレゼントを握りしめたまま。
同意の代わりにユーリの腕から力が抜けた。
髪が敷物の上に艶やかに広がった。
指先から離れた今年の贈り物が転がる。
それを追う振りをして伸ばした指を絡め取る。
「バレンタイン・デイに言うことは?」
頬のラインを指の背でたどりながら訊ねたカイルに、閉じかけた目蓋を持ち上げると、ユーリは甘やかな笑顔を見せる。
「大好きよ、カイル」
一瞬目を細めたカイルは、すぐに腕の中に口づけをふらせ始めた。
おわり
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