三色団子

                            byハマジさん


 今更言うまでもないがユーリの料理はすごい。
 材料も分量も調理法も間違っていない場合でも摩訶不思議な物体が出来上がる。
 しかし、ユーリの故郷であるニッポンはかなりここアナトリアとは気候が違うらしく、ユーリの料理の食材としてぴったりのものが揃わないことが多い。
 そういった場合の料理は口にするのにいつもの3倍の勇気が必要になる。
 原材料を知りたいような知りたくないような…。
 お願いだから、材料がない場合は代用品で作るということは止めてくれ。
 いや、いっそ材料が揃っていても止めてくれ。
 そう言えたらどんなにいいか…。


「今回のは…何というものなんだ?」
 私はユーリから差し出されたものを恐る恐る手にとって見た。
 9月ぐらいに差し出されて物に少し似ている。
 だが、色が違う。緑っぽいと白いのと赤っぽいのものが串に刺さっている。
「これはね、三色団子って言うんだよ。桃の節句とか、桜のお花見の時に食べるの」
 ああ,もうすぐそんな季節か…。
 またハディ達に雛飾りを片付けられてしまわないよう気をつけておかねば。
 まったく…どいつもこいつもマリエを早く嫁に出したいかのように
 すぐに雛飾りを片付けてしまうとは…けしからん。

「どうしたの?早く試食してみて!」
 私が物思いに耽っているとユーリがせっついた。
 おまえは試食してみたのか?
 口に出そうになった言葉を飲み込んだ。言うまい。
 ユーリが試食してしまったらユーリ自身が悲しむことになる。

 私は恐々それに手を伸ばした。見るからにネチャネチャしている。
 口に入れると…案の定形容しがたい味だった。
 いや、味というより刺激物?
 緑の部分は限りなく青臭く、人間でなく芋虫ならば好んで食すかもしれない。
 白い部分は妙にモチモチしていて喉に引っ掛かる。
 餅が喉につかえて死亡する老人が後を絶たないということがよくわかる。
 そして赤い部分は…なんだろう?
 不味いということは当然のことだが、特に特徴があるわけではない。
 匂いは…なんだか芳しい?味はすごいが。
 一体何が入っているのだろうか?


 普段なら恐ろしくてきくことが出来ない料理の原材料が妙に気になり、思い切ってユーリに聞いてみた。
「え〜っとね、お団子は全部米の粉の代わりに小麦粉を練ってるの」
 ふむふむ、それだけであの味になるとは思えないのだが。
「それでね、後はそれぞれに色をつけるための材料を入れて丸めて串に刺して蒸すの。簡単でしょ?」
 ああ、簡単そうだ。だからどうしてそれであんな味に?

「で、それで色というのは?」
「うん、あのね、緑のほうは草団子だからとりあえず草を入れてみたの」
 草?私は羊じゃないぞ。
「本当はヨモギなんだけど、無いみたいだから七草粥に入れたツメクサを入れたの」
 だからあれは羊が食べるものなんだと言うのに!

「それでね、赤いほうは…」
 ユーリがそう言いかけた時、初めて私はユーリの指先に多数の傷跡がついていることを発見した。
「ど、どうしたんだ!これは!」
 痛々しい無数の傷。思わず私はその傷跡の残る指を口に含んだ。
 微かな血の味がする。
「えっ、ちょっと赤い色つけるのに…」
 なんてことだ!赤い団子ははユーリの血で染めた団子なのか!
 自らを傷つけてまで作るなんて…。
 しかし、そう考えると微妙にこの団子にユーリエキスを感じる。
 ユーリのエキスが染み込んだ団子…。
 ユーリ味…。
 ちょっと昼間は声に出して言えないようなことを想像してしまった。

 いや、違う!ユーリはこんな不可思議な味ではない!
 次の瞬間、私は自分でも思いもかけないほど強い口調でユーリに言うことが出来た。
「ユーリ、もうこの団子を作るのはだめだ」
 言った!言えた!苦節○○年、やっとこの言葉を言うことが出来た。
 ユーリは愕いた顔をしている。
「えっ!なんで?美味しくなかった?」
 ああ、もちろん!今までのおまえの料理と同様にな!
 もちろんそんなことは口に出せるわけが無いが。
「いや、もちろんそんなことは無い。
 しかし、おまえが自らを傷つけて作るなんて許せるわけが無いだろう?」
 いい調子だ。なぜ今まで言えなかったんだろう。
「カイル……」
 ユーリは悲しむだろうか?
 いや、一瞬悲しませたとしてもユーリが傷つくよりましだ。

 しかし、予想とは裏腹に、ユーリは少しはにかんだように微笑んだ。
 そして私が今までずっと聞きたかった言葉を言ってくれた。
「わかった。やめるよ。心配してくれてありがとう」


 思えば最初にユーリがパンを焼き始めてからどれぐらい経つだろう。
 ユーリの驚異的な料理の前に何人もの料理長が自ら職を辞し、去って行った。
 胃腸薬を調合する薬師もユーリの料理に対抗する薬を研究する為に遠い東の国の黄色い河近辺まで修行に行ったらしい。
 今まで一度たりともユーリが料理をすることを断念させることは叶わなかった。
 しかし、今、できた!
 今できたということは今後もできるということだ。
 一度できたという事が次への自信に繋がるのだ。


 しかし次のユーリの言葉で私の自信はあえなく砕けた。


「じゃあ、手を傷つけない材料で作るよ。
 染料に使った薔薇の花を摘むときに刺が刺さっちゃったんだけど、やっぱり苺のほうがいいかな。色が薄いかな〜と思ったんだけどね」



 ・・・・・・・・・・・・苺のほうがまだ食用だから味がましだろうかと思えるほど私の性格が楽観的であればよかったのだろうか?


        <おわり>

     

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