キリキリ・スプリング
by 雛祭屋マリリンさん
今日は、正念場だ。
誰がなんと言おうと正念場だ。
マリエもだんだん大きくなって、(ヒッタイト帝国現皇帝の唯一の皇女ということもあって)近隣諸国からも熱い視線を浴びている。
あと数年もすれば、嫁にいってもおかしくない年齢だ。
なんとか、マリエの気を引こうといろいろな贈り物が届く。
エジプトにいるあいつからも毎年誕生祝いが届く。
癪に障ることに公式に誕生祝が届くものだから、闇から闇へというわけにもいかない。
非常に腹がたつがどうしようもない。
『そう言えば、息子の嫁にって言ってたような』などとユーリはのんきなことを言っているが、そんなことをいつのまに話し合ったのだ?
問い詰めたいのを必死に押さえるのもなかなか大変だ。
おっと、そんなことは今日は後回しだ。
”お雛様を早く片付けなくては、お嫁に行くのが遅くなる。”
これを聞いたときは、小躍りした。
そんな簡単なことでマリエを嫁に出さずに済むならと毎年挑戦しているのだが、これがなかなか難しい。
今のところ連戦連敗である。
なにしろ飾ってある場所が悪い。後宮のマリエの部屋である。
雛祭りは女の祭りだと言って、わたしは呼んではもらえない。
そこに入れるのは、ごく限られた人間だけだ。
キックリは双子の嫁サンからなんとか情報を聞き出そうとするが、これは全く当てに出来ない。
偽の情報を流されて混乱するだけだ。
今年は、終わる寸前に行って妨害してやる。そう決めたわたしは、イル・バーニですら文句をつけられないほど仕事に励んだ。
今日は、仕事は休みとなっている皇妃の分までしなくてはならず、なかなか大変だ。
しかし、目標があると人間は本当に頑張れるものだ。
さあ、これで終わりだ。とたちあがろうとしたところに至急の書簡が届いた。
この急いでいる時に・・・・心の中で叫ぶが、この書簡を見るまではイル・バーニが離してくれそうもない。
「陛下、至急とのことです。あとこの一つだけですので。」
書記官からイル・バーニが受け取った書簡は、分厚くて大きかった。
なんだか、いやな予感がする。
しかし、あとこれだけだからと、いらだつ気持ちを押さえて読みにかかったのだが・・・・・
割っても、割っても肝心な中身がでてこない。
新手の嫌がらせだろうか?差出人もろくに確かめずに割ってしまったのが悔やまれる差出人は極刑にしてやろうか?
そう思いながら最後の封を割ったわたしの目に飛び込んだ文字は、アッカド語で書かれていた。
『マリエちゃんも大きくなったでしょうね。お会いできる日を楽しみにしているわ。ネフェルト』
な・ん・だ・と・うーーーーーーー
イル・バーニを振りきって後宮に戻ったもののすでに片付けられたあとだった。
私が望めばこのヒッタイトで叶わぬことは無いはずなのに・・・・・
まだ掃除がきっちり終わっておらず、ほこりがそこかしこに残っているのが物悲しい。
ため息をつきながら立ち尽くすわたしの耳に聞こえるのは、今年も無事に片付け終わったことを喜ぶ3姉妹の声だった。
ネフェルトまで使ってくるとは・・・・・・・
エジプトとヒッタイトの女がつるむと昔からろくな事がない。
いや、もしかすると、この件に関してはイル・バーニも関わっているのかも知れない。
あの書簡が届くタイミングは絶妙だった。
握り締めた拳の爪が掌に傷をつける。
来年はデイルとピアを使おう。
可愛い妹をそばにおいておくためだ。きっと協力してくれるに違いない。
しかし、最近恐ろしい想いに捕らわれる。
もしかすると、わたしの味方はだれひとりいないのではないだろうか?
いや、弱気になってはいけない。
来年こそ、妨害してみせる。
次の雛祭りに向けて、わたしとユーリ(&3姉妹?)の戦いが始まる。
おしまい?
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