仲良し夫婦

                      by ハマジさん

 近頃ユーリの様子がおかしい。
 おかしそうに笑ったりしていたかと思うと突然不機嫌になったりする。
 また、怒っていたかと思うと突然泣き出したり。
 情緒不安定というやつだ。


 デイルが近衛長官を引き継いでから、ユーリの公務は皇妃の仕事に限定された。
 そのため、今まではアスランに乗って辺りを駆け回っていたのが、今度はきらびやかな衣装を着て各国からの使者との謁見を行ったりすることが主になってしまった。
 あれは昔から美しい衣装や豪華な装飾には目もくれないやつだったし、自由に動き回れないということにストレスを感じているのだろうか。
 やはりこういう時は私がユーリのストレスを少しでも和らげてやらねば。




「ユーリ、今夜の宴だが、着るものは決まったか?」
 ユーリの執務室に勝手に入って聞いてみた。
 新年祭の準備が進められている今、私たち二人はかなりの激務に追われていた。

「大体ね。ハディ達が用意してくれてるみたいだし」
 相変わらず着るものに対してユーリは無頓着だ。
 昔はすんなりとしたその手足を惜しげも無くさらしていたが、皇妃になって王宮で政務を行っている間は実用的ではあるがある程度美しく着飾ってはいた。
 皇妃としての威厳を保つ為だとハディ達に説得されているようだ。

「そうか…、今夜は私が用意しようと思っているのだが」
「え?カイルが?」
 怪訝な顔をするユーリ。
 以前私がユーリの衣装を調えたとき、あまりにもユーリが美しく妖艶であった為、私自らまたユーリを着替えさせてしまったのだ。
 あんな美しく光り輝いているユーリを皆の目にさらす事を考えると眩暈がしそうだった。
 結局その時は7回も着替えさせてしまって衣装が決まったときにはユーリはぐったりしていた。
 宴の後にはこっぴどく怒られてしまった。

「大丈夫だよ。今回はもうちゃんと決まっているから」
 そう、もうばっちり決まっている。代わりのものなど無いぐらいに。

「そう、ならいいけど。ハディ達に渡しておいてくれる?」
「ああ、期待して待っていてくれ」




「思ったより普通だね」
 カイルの用意した衣装をハディ達に着付けしてもらいながらユーリは言った。

 春の宴にふさわしい若草色の腰布に金の刺繍が美しい深い緑の帯。
 鮮やかなオレンジ色のショールを肩から羽織り、バビロニアから取り寄せたエメラルドのブローチで胸元の布を合わせる。
 アクセサリーはルビーと紫サファイアが散りばめられた額飾り、ペアになってるイヤリングとチョーカー。
 アップにした髪には金とガーネットの髪飾りが飾られた。

「勿論相変わらず陛下のご趣味は素晴らしいですけど。このブローチの細工なんて本当に美しいですわ」
「「この額飾りもステキ。でも、特別変わったところが無いですわよね」」
 ハディ達も普段カイルがユーリの為に取り寄せる衣装とさほど変わりないのに、あえて今日の宴に限定された衣装を見て怪訝に思う。
 4人で顔を見合わせて考える。

「なんでこれなんだろ???」




「ユーリ、着替え終わったか?」
 カイルが現れたときユーリ達はなぜカイルが今日の衣装を選んだのかすぐにわかった。
 カイルの今日の衣装は若草色に深緑の淵がついた長衣にオレンジ色のローブ。
 最近オールバックにしている為に表される額を飾るアクセサリーはユーリのそれよりも若干大きめの男性用だが同じデザイン。
 これは所謂…


 あっけにとられているユーリ達を満足そうに見るカイル。
「どうだ?気に入ったか?」

「カ、カイル、これって…」

「そうだよ。私とお揃いだ。所謂『ペアルック』というやつだ。やっぱリコーディネイトはこーでねいと」




 ・・・・・・・・・・・・たっぷり3分は沈黙が続いた後、ユーリが吹き出した。
「あっはっは!面白〜い!」
 ユーリは腹を抱えて笑っている。
 そうだろう、そうだろう。この笑顔を見るために今日の宴を催したようなものだ。
 見ろ!私たちの姿を!
 こうして同じ服を着ているとまるで永遠の一対のようだ。
 生まれる前から約束されていた恋人同士、魂の半身とはまさに私とユーリにふさわしい。
 さらにはこの私の知性溢れるジョークでユーリのストレスも一気に吹き飛ぶというものだ。


「宴の前に少しワインでも飲まない?ちょっと喉が渇いちゃった」
 笑いすぎで喉が渇いてしまったのだろうか。ユーリはおもむろにワインを煽った。
「あッ!」
 杯を傾けたとき中身のワインが少しユーリの腰布に零れた。
 ハディ達は慌ててそれを拭う。
 真っ赤なワインは若草色の腰布に広がり、シミを作ってしまった。

「ごめんね、カイル。せっかく用意してもらったものなのに…。これじゃあ着替えるしかないね」
 そう言うとユーリはニッコリ笑って私を部屋から追い出した。
「着替え終わったら行くから先に宴に出ていて」


 せっかくのペアルックが…。一瞬だけの幻になってしまった。
 ユーリだってせっかく気に入ってくれていたのに…。
 仕方が無い。また仕立てさせればいいことさ。





「ユーリ様、あんなあからさまでは陛下がおかわいそうですわ」
 新しいドレスを選びながらハディが言った。
 しかし、それは咎めるような口調ではなかった。むしろ少し同情気味だった。

「だってハディ、あんなの耐えられないよ。ペアルックなんて超ダサい上にあの駄洒落…。もう眩暈しそうだよ」
 ユーリは頭を抑えてうめく。

「陛下はユーリ様のためをお思いなのですわ」
 リュイはアクセサリーを宝石箱から出しながら言う。

「それがわかってるから、超つまんなくても笑ってあげてるんじゃない。本当は泣きそうだよ」
 そういって本当に涙が零れてしまった。
 カイルの所に行く前にきちんと涙を拭いておかなくちゃ。

「ペアルックのことにしましても、最近うちのキックリもやたらと着たがりますわ」
 シャラは自分達の夫と子供たちが同じ服装をしていたことを思い出した。
 双子の兄弟とだけでなく、むしろ姉妹のほうとペアルックにしたがる。

「全然街では流行っていないのですけどね」
 もちろん若い女性の間ではまったく流行っていない。
 しかし、ペアルックというものはある一定の人々の間では何千年も前から着られていたものだった。

「どうして男の人ってペアルックを着たがるんだろう…」
 ユーリはため息しか出てこなかった。


「「「謎ですわね…」」」




 遅れて宴に現れたユーリ。その目には少しだけ涙の後がある。
 私が部屋を出た後こっそり泣いていたのだろう。
 そんなにペアルックに出来なかったことが残念だったのか。
 次回の宴までに特注で作らせよう。


 ユーリを膝の上に乗せながら決意を固めるカイルであった。


           <終わり>

    

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