本当に迷惑(+_+;)

                         by 白日屋マリリンさん



 新任の料理長は、まず目を大きく見開く。
 それから、自分の目をこすり再びそっと眼を開く。
 が、どうしても消えないその姿にそっと周りの反応を窺う。

 周りが、何も反応せず普段と変わりない様子を見せていることに気が付くともう一度視線を戻す。
 が、やはりどうしても消えないその姿を眼にすると、頭を振りながら身体の不調を訴え厨房を後にする。

 そのセリフも決まっている『どうも、疲れているようだ。』と

 今日も、新しい料理長は身体の不調を訴えて厨房から出てきた。
 皇帝が厨房で料理を作るなど、考えられないのだろう。(普通はそうだ。)
 ため息をつきつつ顔をあげて僕を見つけた料理長は、へなへなと崩れ落ちるとその場に座り込んでしまった。
 その眼は大きく見開かれているが、何も映していないようだ。

「料理長?」
「ピア殿下まで見える。」
 いや、見えていいんだけど・・・・・
「私は、よっぽど疲れているのだろうか?」

 立ち上がった料理長はとぼとぼと歩いていった。


 料理長などお構いなしに、今年もクッキー作りに励んでいる父上の姿は、長年仕えているものにとっては、周知の事実で、いまさら驚くことではない。
 最近では、暗黙の了解としてこの日に行事が組まれることはまずない。
 公の行事ではなく、私的な行事なので以前は公務が入ったこともあったらしいが、その時の父上の機嫌の悪さは凄まじかったらしく、この日を指定してくる勇気ある人物はもはやどこにもいない。

 母上の料理と違い、まったく心配のない父上のクッキーのはずなのになぜ僕がここにいなくてはならないのか?

 それは、母上の邪魔をするためである。

 去年母上は厨房の父上の元に突進し、その微笑で『手伝うわ』と言って父上を籠絡した。
 その結果とんでもないクッキーが出来上がったのである。

 それを知らずに食べた面々はしばらく胃痛に悩まされ、父上の偉大さを知った。
 同時に”王宮で今までに知られていない疫病が発生したらしい?”という噂に皇弟夫妻が駆けつけるなど少なからぬ波紋を残した。

 いつもなら、『皇族が厨房に行くなど、とんでもございません。』と頑なに言い張る侍従長ですら今年は黙認である。
 皆の期待を背中に感じながら厨房の前に立つ僕は思う。
 なぜこんなことをしなくてはいけないのだろう。
 こんな両親を持ったせいだとは思うが、それでもため息をつきつつ心の中つぶやく。

『本当に迷惑だ(+_+;)』


                  おわり

    

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