朧〜oboro〜


                      by あーやさん




月が・・・かすんでいる
まるで未だ晴れない私の心のように 私の中に広がる果ての見えない深い深い霧
きっと私はこの霧を晴らすことはできないだろう
いやそうしようとはしないだろう
だってそれが・・・





この宮ではだいたいどこにいようともこの満天の星を望むことができる。
その中でもひときわよくその星の輝きと月のひかりを感じられるのが王宮の中庭である。

大きな柱と自分の身体の間にクッションをしき、クッションによりかかるように雲でかすむ月と満天の星空の天を仰いでいる小さな身体があった。
ゆったりとした長いドレスを身にまとっているがデザインはいたってシンプルである。
身にまとっている本人が見るからにひらひらした服を好まぬからであろう。
いつも主人のそばを離れずにいる三姉妹の女官たちの姿は珍しくなく、たった一人で天を仰いでいた。 
「ユーリ?」
ふと背後で声が聞こえ 振り向くと切なげでしかしいつもとかわらぬ笑顔の愛する人の姿。
「カイル。お仕事おわったの?」
何事もないかのように愛する人へねぎらいの言葉をかける。
「ああ。それに今夜は星があまにりにぎやかなんでな少しゆっくりしたいと思ってな」
そういうと彼はユーリの隣へ腰かけ 同じように天を仰いだ。
同じ夢を見た弟を思い出しているのかもしれない。
やさしかった母を思い出しているのかもしれない。
どちらにしてもなにかを懐かしむように目を細め天を仰いでいた。
「誰を思い出している?」
ふとカイルが尋ねた。視線を下げずユーリが言った。
「あなたは誰を思い出している?」
質問を切り替えられ少し苦笑いしながらカイルは答えた。
「昔ザナンザと今晩のようなかすむ月を見ていて、どうして星はあんなに輝いているのに月だけかかすむのだろうと話したことを思い出していた。」
「こういう月を朧月って日本ではいうのよ。はっきりしない姿のかすんでいるものを朧っていうの」
「朧月か・・・。で?お前は誰を思い出している?」
そういうと初めて視線をさげユーリのほうへ顔をむけた。
ユーリは軽くカイルに微笑むと、また視線を上げ話はじめた。
「ときどき見る夢のこと。
深い深い霧の中に家族がいるの。みんなは一緒にいるのに私だけ少し離れたとこにいてみんなをただ見ているの。
夢の中の私はやけに冷静で寂しいとかみんなのとこにいこうとか思わないんだけど、いつも目がさめると泣いてるの。」
「寂しいか? 悲しいか?」
カイルは隣にいるユーリの肩をそっと抱き寄せ聞く。
「いいえ。っていえば嘘になるかもね。
でもねカイル、霧の中のみんなはこの朧のようにかすんではっきり見えないの。
それは、私がみんなのことをもうふっきろうとしているからかもしれない。
ううん、もう・・・。でも私がこの夢を見るたびに私は朧ながらにもみんなを忘れないわ
だから、私はみんなにかかった霧ははれなくていいって思ってるの だってそうしたら忘れてしまうかもしれない。朧の姿よりあなたの腕の中のほうが心地いいから。」
「忘れてしまえばいいと言ったら怒るか?」
カイルはユーリを抱く腕に少し力を入れた。
ユーリはにっこり笑うとカイルの胸に頭をあずけた。
「私ねみんなに伝えたいことがあるの。これは私が生涯を終える時まで あなたの側を離れるまで みんなを覚えていて みんなに最後に伝えたいの。
だから、私は朧にでも 姿のはっきりみえなくてもみんなを忘れないわ・・・忘れちゃいけないような気がするの」
「そうか・・・。なんだか寂しいな、私にはその伝えたいことの内容を教えてくれないのか?」
「ええ、教えてあげない」
ユーリがいたずらっこのように笑って言った。
ふうっとひとつため息をつく。
「では、どうにかして聞きださないと。」
そういうとカイルは軽くキスをしユーリを抱きかかえた。




後悔はありません 幸せでしたから
おろかに生きてきました でも幸せでした


   

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