不幸な昼下がり
by きくえさん
いじめだ。
最近、王宮内でいじめが横行している。
由々しき事態だ。
始まりは、議会で「皇帝と皇妃の執務室を別々にする」などという下らない議題が、ある議員からあげられた事だった。
通るわけが無い。
そう思っていたのに、議員は全員一致で賛成し、皇妃までもがそれに賛同するという暴挙に出た。
あの時は、玉座を薙ぎ倒す勢いでその場を去ってしまった。
おかげで、わたしは今ではこの広い執務室にたった一人で仕事をしなければならない。
「はぁ」
我が身の寂しい現状を振り返ってみて、溜息が止まらない。
「どうかなさいましたか?」
脇に立つイル・バーニが、新しい書簡を押しつけながら言う。
しらじらしい。
原因を作り上げたのは自分だというのに。
「ユーリはどうしている?」
「ご自分の執務室で御政務をなさっておいでの筈です。
それよりもこれに目をお通し下さい」
かわいそうに…日頃からピクニックに行きたいと言っていたユーリを想うと、こんな青空が広がっている日はかわいそうで仕方がない。
執務室から覗く青空は、小さな四角で切り取られている。
文官が差し出した書簡をのろのろと受け取り、嫌々ながら目を通す。
が、どうにもやる気がおこらない。
「ユーリの所へ行く」
短くそう言うと、判を押した書簡を突き返し、安らぎを求めて部屋を出る。
「陛下、これでは執務室を分けた意味がありません!」
……わたしは賛成した覚えは一度もないのだが。
そもそも、分けなければならなかった理由が納得できない。
皇帝と皇妃がいちゃついていて一体なんの問題があるのか、さっぱり判らない。
ぶちぶちと文句を言いながらついて来るイルを無視して、隣の部屋の扉を開ける。
誰もいなかった。
皇妃専用執務室には、ユーリどころか誰一人としていない。
「ユーリはどこだ?!」
慌てて奥の小部屋も覗くが、やはりユーリはいない。
後ろを振り返ると、憎らしいくらい冷静な顔のイルが、小さな粘土版を手にして机の横に立っていた。
「どうやら、ユーリさまの本日分の御政務は終了されたようですな」
またかっ!
またなのかっ!!
「後宮へ行く!」
大股で部屋を出る。
こんなことは今まで多々あった。
どうしてもユーリに会いたくなって隣室に出向いても、ユーリは既に仕事を終えていて、居ないのだ。そんな時は大抵、後宮で子供達の相手をしてやっているので、探す手間はあまり必要ではない。
しかし、執務室を別々にしてからというもの、仕事量はそれぞれ変わりがないのに、わたしの仕事がなかなか進まないのに対してユーリは早く終わるのは何故なのだろうか。
そして、そんな時のユーリがわたしの執務室に来てくれる事は、滅多に無い…。
後宮に着くと、侍従長らが叩頭して出迎える。
日頃何かとわたしやユーリがやろうとする事を邪魔してくる奴だが、ユーリの単独脱走をなんとか止めようとしてくれる点では、今やわたしの唯一の味方となった男だ。
「子供達はどうした?」
後宮内がいやに静かなのが気になる。
遊び盛りの子供達の甲高い声は、どこに居たって聞こえてくるのに。
「殿下方は、カイル様とご一緒に遊ばれる為に、アイギル様の宮においでになられました」
「そうか」
デイルとピアは、ギュゼルの息子であるカイルの事を兄のように慕っている。
きっと、将来は3人でこの帝国を支えていってくれるだろう。
子供達の姿が過去の自分たちと重なって見えて、今から頼もしく思える。
「ユーリはどこにいる」
子供達がいないのならば、昼寝でもしているのだろうか。
しかし、ユーリの寝室に向かった足を、侍従長が止めた。
「お待ち下さい、陛下。皇妃様からこれを御預かりしております」
そう言って渡されたのは、小さな書簡。
わざわざ皇妃の印章まで押されている。
「陛下が後宮においでになられたらお渡しするよう、御預かり致しました」
「なんだ、これは」
近くの柱にぶつけて、封を叩き割る。
中から、独特のクセのある字が出てきた。
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愛するカイルヘ
お仕事ご苦労様!
今日は子供達と一緒にピクニックに行ってきます。
そんな所でサボってちゃダメだよ?
お仕事頑張ってね。
ユーリ・イシュタル
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最近、王宮内で皇帝虐めが横行している。
<お気の毒さま♪>
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