ポン子さん、奥にて1000番げっとのリクエスト。「キックリと双子の奥座敷」・・・。
知ってますか?奥は「いやらしいもの」だけではなく、「下品なモノ」の隔離場所でもあるのですよ。
「ふたり」
「ええなあ、若い嫁さん二人もおって」
厩番の老人が、歯の抜けた口をあけてにやにや笑った。
「毎晩、嫁さんふたり並べて楽しんでんねんやろ」
想像したのか、げへへへと笑い声をあげる。
「はあ、まあ、ぼちぼちです」
言いながら頭を掻く。ここで、反論しようものなら、さらに露骨な表現が飛び出して来るに決まっている。
この老人は、うちの「嫁さん」の実体を知らない。確かに若くて、美しい(と思っている)が、男顔負けの腕っぷしで、おまけに口八丁だ。そして、二人とも同じ顔をしている。
体つきも全く同じ。
結婚するまで、二人一役を演じていたことにも気がつかなかった。結婚しても、シャラが身重でなければ区別がついたかどうか、自信がない。
そんなことを口に出せば、なにを言われるのか分からないので(攻撃は二人がかりだ)今のうちにと思って、毎日必死に顔を見ている。愛があれば、区別できるはず。
つき合っているころもそう思っていた。
ボクはリュイを愛していて、だから区別がつくのだと。ところが、愛していたのは、リュイだけではなかった。シャラも、リュイのフリをしていたのだ。
二人はボクと過ごした後、口裏合わせのために詳細にその日あったことを話し合っていたらしい。
市で買ってきた腕輪を口ごもりながら渡したときとか、はじめてく・・口づけを交わしたときとか、その・・肌を合わせたときとか。
目測を誤って鼻に噛みついてしまったこととか、焦るあまりに、上着が脱げずに苦労していたこととか。
詳細に、多分感想も交えて。キックリったら、経験あんまりないわね、なんて。
うわあああぁぁ!
赤面する。
「なに、思い出してんねや」
老人の顔がすぐそばにあった。誤解したようだった。
「ほんまに、昼間っから、若いもんにはかなわんわ」
言いながら顔の前で手を振る。訊いたのはそっちじゃないか!!
「嫁さん待ってんねやろ、はよ帰れ帰れ!」
言いながら馬具を持ち上げる。後かたづけをしてくれるらしい。口は悪いけれど、人は悪くないんだ。
ボクは頭を下げて厩舎を後にした。
実のところ、嫁さんは、待ってはいない。うちは共共働きなのだ。
リュイとシャラは、ボクの主人の皇帝陛下カイルさまの御寵姫ユーリさまの侍女をしている。
当然、ユーリさまがお目覚めになる前から、お休みになった後までお側にお仕えしている。ユーリさまのお休み時間は早いとはいえ、明るい間から帰宅できるというわけではない。良くしたもので、皇帝陛下はユーリさまとご一緒にお休みになるので、お二人がお休みになってから、三人そろって帰宅することになる。
厩舎から引き上げると、陛下の御前に伺候する。陛下のお側には当然ユーリさまがおられる。ユーリさまのお側には、嫁さん達がいる。
「「あら、キックリ、もう戻ったの?」」
同じ顔が同じ声で言った。シャラはもう産休をとってもよいと言われているのだが、ユーリさまのお側の方が落ち着くのだそうだ。
「アスランは、元気だったか?」
陛下の御下問がある。
「はい、ことのほか元気で、一日駆け回っておりました」
ボクの言葉に、陛下はユーリさまの方をむかれると満足げにおっしゃる。
「ほら、ユーリ安心しろ。アスランは元気だ。もう少ししたら馬にも乗れるだろうから、それまで我慢するんだな」
禁足令をくらったユーリさまは少しむくれて唇をとがらせる。幼い表情がかわいくて、陛下が夢中になるお気持ちもわかる。
「あたしはもう大丈夫だから、アスランに乗ってもいいでしょう?」
包帯で固定された足首を突き出す。
「ちょっと捻っただけなのに、おおげさ!あたし、退屈だよ」
ユーリさまは退屈だろうが、おかげで側近は楽になる。
陛下はにこにこ顔で、むくれているユーリさまを抱き寄せる。下心あり、だ。
「退屈しているのなら、紛らわせてやろう・・キックリ、もう休むぞ」
「ええっ!?」
はっきり言ってまだ日が高い。けれど、このあと特に予定もなかったはずだからお二人が休まれても格別困るようなことはなかった。
それに、お休みが早いと仕事上がりも早い。
「ユーリ、キックリ達は新婚なんだから、気を使わないと」
他人のせいにして、陛下がユーリさまを説得する。ユーリさまは真っ赤な顔をして、シャラを見て、納得したようだった。
「そうだよね、シャラ、リュイももう休んでいいよ」
「ありがとうございます」
平伏して見送ると、同じ顔が二つボクを振り返った。
「「キックリ、じゃあ帰りましょうか?」」
なぜ同時に喋る必要があるのだろう。どっちか片方が言えば用は足りるはずだった。
ボクはさも、困ったという顔を作る。
「陛下のお部屋を整えないといけないんだ、先に帰ってくれ」
「「あら、手伝おうか?」」
「いや、これはわたしだけでしなくてはならない」
「「ふーん?」」
あまり追求もせずに、双子はその姉と立ち上がる。
安堵の息をつく。
問題は、嫁さんが二人いることだ。二人とも好きだし、甲乙つけがたい(つけられる人間がいるのだろうか)が、夫婦間のことがある。
その、つまり、夜にどうすれば不公平が生じないのか・・。
厩番が言うように、同時に二人なんて、身体がもたない。一方を訪ねれば、その間の一方のことが気になるし。
幸い、シャラは身重なので、慎んでいる。リュイの方はなんのかんのと理由をつけて回避してきた。仕事が遅いので疲れている、とか。
なのに、今日は日が高い。やばいぞ、キックリ!!
帰ったら、二人は同時に迎えるだろう。食事をして、入浴をして・・・それから、どちらかに告げる。
「今晩は、そっちの部屋に行っていいか?」
どっちの部屋だ?と、とりあえずはリュイか?シャラだって身重だとはいえ、安定期に入っている。だとしたら・・うう。
ボクから選ぶのは避けた方がいいだろう。以前と同じように、二人が勝手に決めてくれればいい。この際、仕方がない。
その場合、こっちが乗り気ではなくて断ったら・・・角が立つ。
どうすればいいんだ。
悩んでいても手は動き、皇帝陛下の私室は片づき、家に帰る時間がやってくる。
ため息。
新婚で、スキップしながら帰ってもよいはずの家路をとぼとぼたどる。
新婚なのに。
「ただいま・・」
「「おかえりなさい!!」」
顔をあげて、眼を剥いた。(かなり大きく開いたと思う)
目の前には、妊婦がいた。二人も。
「な、な、なん・・」
「「どうかしら、これ?」」
ユニゾンでしゃべるな。
「「あたしたち、いつも一緒でしょ?違う格好していると落ち着かなくて」」
同時に腹を撫でる。
「「同じ格好してみたの」」
なんだか、視界がぐらついた。区別がつかない、悪夢だ。
双子の小悪魔達はにっこり笑顔を浮かべた。
「「ところで、キックリ、今晩はどっちと休む?」」
おわり
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