ナッキー☆エンターティーメント



 ナキアは満足げにうなずいた。
 もともと派手なことが好きな性格である。それが代替わりしてからと言うもの、滅多に宴会なども開かれなかったら、鬱憤が溜まっていた。
 皇帝のお妃選びという名目で元老院を説き伏せ、主だった貴族を集めて派手に騒ぐ場がもてたのだ。
 今夜はナイスなボディをしっかりと目立たせる縫製のドレスに、流行のファーをさりげなく取り入れたイヤリングなんかをつけてみた。
 勝負服に身を固めた正妃候補の小娘たちなどまだまだ足下にもおよばないはずだ。
「さあ、尊き姫君方のどなたが陛下のお目にとまるかしら?」
 いいながら、ちょっぴり小首もかしげてみせる。
 ナキア陛下って意外に可愛いところもあるんだな!俺、ファンになっちゃうよ。
 そう思う兵卒もいるはずだ。
 まあ、今回の宴会で本気で皇帝の目にとまる姫君が出てくるとも思えないが。
 念のために幼女(注:アレキサンドラのこと)も候補に入れてみたとはいえ、皇帝の女の趣味は変わっていることはとうに分かっている。
 とりあえず、本日は自分が目立てばいいのだった。
「さて、なにか面白い余興はないか?」
 言いながら、周囲を見渡す。
 ここで、「皇后陛下の芸をぜひ」という声が上がるのを待つわけだ。勧められたからと言って、すぐに立ち上がるのも見苦しい。
 何度かの要請の後にわき上がるナッキーコールの中、仕方なしに、というのが理想だ。
 神業に達した芸というのはそうそう気軽に見られるものではないと思わせなければ。
 すでにナキアの水芸は『ナッキー・イリュージョン』と銘されて絶賛されている。
「あの、おばさま」
 姪のイシン・サウラ王女が頬を染めた。
「なんじゃ?」
 まさか、こやつなにか芸を披露するつもりか?
 ナキアはあからさまに不快そうな顔をした。
 しかし、と思い直す。
 イシン・サウラはバビロニア王室の娘である。兄である国王からそれなりの芸事も仕込まれていることだろう。
 まあ、前座にはちょうど良いか。
「ほう、どんなものを見せてくれるのかな?」
 余裕たっぷりに訊ねてみる。
「はい、わたくしは鼻から飲んだ牛乳を目から出すことができます」
 恥ずかしげに言った王女に、どよめきが上がる。
「おお、さすがはバビロニアの姫君だ!」
「皇太后様の姪ごさまだけのことはある!」
 わたくしならその牛乳をさらに耳から吹き上げてみせるわ。
 ナキアは思ったが、口にしなかった。頂点に立つ芸人というものは、いつも悠然としていなくてはならない。
「わ、わたくしは鼻の穴に詰めたピーナッツを3メートル先の的に当てることができますわ!」
 立ち上がったのは、先帝の娘サバーハ姫だった。
 この場でライバルに水を開けられてはたまらないと考えたのだろう。
「おお、それはすばらしい!」
「ヒッタイト皇家の姫はやはりこうでないと!」
 やはり賞賛の声が上がる。
「わたくしはわんこそばを1分間に21杯食べることができますわ!」
 負けじとやはり皇家のウーレ姫も叫んだ。
「わたくしはバナナを丸飲みできますわ。台湾産でなくて、フィリピン産をですのよ?」
 アクシャム姫も声を張り上げる。
「さすがは正妃候補の方々だ、どなたもすばらしい」
 貴族達のどよめきに、ナキアはうなずきながらも心の中で冷笑した。
 どれもこれも、たかが一発芸にすぎない。しょせんナキアの芸術の域にまで高められた芸に較べたら子どもの発表会みたいなものだ。
「そういえば・・・」
 すでに牛乳ビンを握りしめてスタンバイ完了のイシン・サウラ姫が、末席を振り返った。
 そこには、皇帝唯一の寵姫が座っている。
「イシュタルさまはアルザワ戦のおり、踊り子のマネをなさったとか・・・」
 王家の姫の尊大さで顎をしゃくる。
「踊り子って、ただ踊るだけですの?」
 おおげさに側室候補の姫が声をあげた。
 目立って、自分もなにか披露する魂胆であろう。
「火を吹いたり、口から鳩を出したりしませんのね?」
 別の姫も目立とうとする。どいつもこいつも見苦しい。
 くすくすと笑いがおこった。
「わたくし、そのような下等な芸、見たことがありませんわ」
「踊るだけならよちよち歩きの赤ん坊にだってできましてよ?」
「でも一度見ておくのも話のタネかしら?」
「イシュタルさま、ぜひその踊りとやら、お見せくださいませ」
 人々の視線が寵姫に注がれる。
 ナキアのはらわたは煮えくりかえった。
 この場で注目を浴びるのは自分だったはずだった。それなのに踊りを踊るだけのあんな小娘が注目されている。
 第一、ヒッタイト国内で踊る人間ならば『ヒッタイト踊りの会名誉総裁』(注:タワナアンナが就任する名誉職)に一言挨拶があってしかるべきであろう。
 これもすべてでしゃばりのイシン・サウラが悪い。
 浴びせられる嘲笑に、寵姫はしばらく俯いていたが、やがて拳を握りしめて立ち上がった。
「踊らせていただきます!」
 決意を秘めた顔を見て、ナキアははっとした。
 自然に椅子の肘を握りしめてしまう。
 もしや、この小娘・・・
 ごくりとつばを飲み込んだ。
 落ち目のアイドルが人気挽回を狙うように、脱いでみせる気ではないだろうな?
 たとえ、どんなに芸が洗練されていようとも、ヘ○ヌードが出てくると話題はさらわれてしまうのだ。
 緊張するナキアの耳に、最初の音が流れてくるのが聞こえた。



                           14巻186Pに続く・・のか?

    

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