『キーン コン カン』
by金こすもさん
避暑地として離宮が建つ高原の近くで、ユーリが大喜びする発見がもたらされた。
谷間の洞窟の奥で、巨大な氷山が見つかったのだ。
冷蔵庫も氷もない火の季節で暮らすようになってから、ユーリはこの暑さで元気がなかったのだが、
さっそく三姉妹を連れて氷山を見にいった。
「うわぁ〜! 涼し〜い」
「こんな、大きな物始めですわ〜」
「ユーリさま、ここ天国ですよね〜」
「こうもりが、いなかったらいいんだけど・・・・」
「気にしない、気にしない。さてと・・・! ハディ、離宮から荷物を持ってこようよ」
ユーリの提案に、三姉妹は驚いた。
「・・・・・? ユ、ユーリさま? もしかして、ここにお住まいになられるんですか?」
青い顔をしたハディたちに、ユーリはにこにこ顔―――。
「あたり〜! 嬉しいことに、この氷山のまん中、空いているんだよね。あそこに麦わらと絨毯をひけば、
ひんやりとした部屋のできあがり〜〜! 」
「ユーリさま! 陛下にはなんとおっしゃるつもりなのですか? 」
リュイもシャラも、ハラハラドキドキだった。
この引越しでふたりが喧嘩となったのならば、リュイたち側近たちは大変な事態におちいるというのに〜〜。
「大丈夫だよ。陛下は解ってくれるってば〜。ねえ、持ってくる荷物なにがいいかな〜?」
三姉妹の心配とは裏腹に、ユーリは円満な笑顔で外へ出ていった。
キーン コン カン
ユーリは寝椅子の上で、氷山から響く音色を気持ち良さそうに聴きいっていた。
「あぁ〜、冷た〜い。まるで冷蔵庫に入っているようだわ〜。カイルには、かわいそうな事したけれど許してくれるよね。
だって〜、暑いんだもの〜」
ユーリは、また氷山の壁を金属の棒で叩いてみた。
キーン コン カン
「この音色、まるで教会の鐘みたいだな〜。結婚式の鐘の音、あこがれだったな〜」
白いウェディングドレス、鮮やかなブーケ、両親の顔、姉妹の顔、友だちの喜びの顔・・・・。
望んでいた光景・・・・、懐かしい顔、顔・・・・・・、そして・・・・その隣には、夫となる人の顔・・・・。
「ふぅ〜〜」
ユーリの溜め息が、氷山にこだましていった。
キーン コン カン
力強い響きが、ユーリを驚かせた。
外から、だれかが氷山を叩いたのだ。
「なんだ? ユーリ。おまえの望みどおりに願いをかなえてやったのに、溜め息などをついて」
カイルの声と共に、白い両手がユーリの両腕をつかんだ。
「きゃぁ〜! カイル〜。ど、どうしてここへ? お仕事で、ハットウサへ向かったんじゃないの〜? 」
カイルは満足げな笑みを浮かべて、ユーリの上に身体を横たわらせた。
「残念でした! あれはウソだ。おまえが私を置いて、ここで暮すつもりだったからウソを言ったんだ。私を置いてきぼりにした罰だ!
私も、この楽園で暮すことにした」
「ん・・・・あっ・・・・・」
白い肌と象牙色の肌がからみあい、巨大な氷山が揺れていく。
部屋のなかへ迷いこんできたこうもりが、その揺れで慌てて飛びまわった。
キーン コン カン
冷たい氷山に、鐘の音色とユーリの声が溢れていった。
「ねぇ、姉さん。このままで、大丈夫かしら。氷山は、いつまでもてるのかしらね?」
シャラの声に、ハディたちは不安な眼差しで氷山を見つめていた。
<おそまつ>
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