バトラー・クッキング

                        by 母乃日屋マリリンさん

 今日は後宮が静かだ。
 いや、静かすぎる。

 私は、背中を冷たいものが流れるのを感じた。
 立ち尽くしたまま、人の気配を探れば3.4人がだんだん近づいてくるのがわかる。
 そちらに向かって歩き出せば、のんびりと会話を交わす侍従長と侍従たち。
 その表情は最近はほとんど見なかったほどゆったりしている。

「おや、陛下どうかなさいましたか?」
 侍従長が私の引き攣った顔を見ながら、おっとりと言葉を紡ぐ。
 そういえば、この侍従長は本来あまり騒ぎ立てるほうではなかったはずだ。

 細切れになったマントを身にまとう皇女(皇妃もいるが)や池に飛び込む皇子がいなければ、侍従長は本来の自分を見せながら、つつがなく立派にその職務をこなしていける人物だ。
 この時代の後宮の侍従長である自分の不幸を、かげでこっそり嘆いているのではないかと時々気にはしているのだが



「ユーリたちはどこだ?」
「・・・?」
 侍従たちは顔を見合わせる。
「厨房においでになるはずですが?」

 いや、いないから聞いているのだが。
 厨房の惨状は口にするまい。
『今年は、新しい料理に挑戦するの』 
と眼を輝かしていた子供たちはいったい何をやったのだろうか。
 どうやったらあんな状態になるのか。
 食料が爆発物に変化することなどあってはならないことだと思うのだが・・・・
 ため息をつく。
 きっと、今は呆然としている料理長がそのうち辞表を持ってやってくることだろう。
 あの桜餅の味見にもめげなかった、なかなか根性のある料理長だったが・・・・・
 次の料理長を探すようにイル・バーニに命じておこうか。
 いろいろと考え出すとこめかみに痛みが走る。

 ここにも、厨房にもいないとなると残るのは・・・・・・
 考えたくもないが、それ以外はありえない。

 私に言わせれば、『脱走』だ。
(ユーリは『お出かけ』と言うが)

 そういえば、3姉妹の姿がみえない。間違いないだろう。
 すぐに探しに行きたいがどこを探せばいいのか?
 思い巡らす私の耳に
 きゃあ きゃあとユーリと子供たちが楽しげに戯れる声が聞こえてきた。

「ねえ、カイル 見て見て、きれいでしょう。」
 ユーリの腕には抱えきれないほどの花があった。
「「「今年のかあさまへのプレゼントは花にしたんだ。」」」
「とってもきれいな花畑だったのよ」
 うっとりとした表情でユーリが言う。
 母の日のプレゼントに花
 いつか、ユーリから聞いた日本の風習である。
 嬉しそうなユーリと嬉しそうな子供たち。
 無事に帰ってきたのだ。小言をいうのはやめておこう。
 ユーリたちの後ろにいる3姉妹の必死に懇願する視線に免じて・・・・・


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 料理長からの辞表は、いまだ出ていない。

『あれだけの破壊力があれば、硬いものでも砕けるのではないか。』
 と言って再度同じ状態になるようにがんばっているらしい。
 料理とは、かなりかけ離れていっているような気がするが、探究心が旺盛なのはいいことだ。(と思うことにしよう)

 父の日の料理を画策(?)しているらしい子供たちに戦々恐々としている我々の中で、一人期待に胸をわくわくさせている料理長。
 なにか間違った方向へ進んでいるような気がするが、普段の料理に問題はない。
 ハディに ”気の毒な料理長” と思われた料理長は数々の試練(?)を経て ”最強の料理長” になろうとしている。(のかもしれない)

      

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