Open your eyes



 指先に柔らかい髪がからむ。
 癖のある黒髪は、落とされた灯火を弾いて滑らかに輝く。
 少しのびたのかも知れない。
 指に巻きつかせ、指先でつまみながら飽きることなくその感触を楽しむ。
 ずっと、触れたかった。
 汗に濡れて少し湿った髪を梳き上げると、薔薇色の肌が現れる。
 ふっくらと丸みをおびた頬は、かすかに上気している。
 手の甲で撫でながら、わずかに開かれた唇に触れる。
 規則正しく繰り返される呼吸が手のひらに伝わる。
 柔らかな唇は、微笑むようにほころんでいる。
 どれだけこれを求めただろう。
 親指の腹で唇をたどる。
 ずっと、会いたかった。
 愛しい声がそう告げた。
「私も、会いたかった」
 そっと声に出す。
 閉ざされたままのまつげが影を落としている。
 細い腕でしがみつき、身も世もないほどに泣き崩れたのは先刻のこと。
 震える身体を抱きしめながら、安堵と共に襲ってきたのは胸の痛み。
 どうして離れて生きてこられたのだろう。
「ユーリ」
 名を呼ぶ。
 闇に向かって何度も呼びかけても、いらえなどなかった。
 そのたびに胸を浸したのは暗い絶望。
「ユーリ」
 やはり返事はないけれど、漏れる息づかいが胸を暖かくする。
 冷え切っていた身体の隅々にまで、暖かい血が巡り始める。
「ユーリ」
 ただこれだけの言葉が甘美な魔力を持つのはなぜだろう。
 微かなため息と身じろぎのあと、そっとまぶたが開かれる。
「カイル?」
 まるで夢の中にいるように、うっとりとした声。
 身体をすり寄せながら甘くささやく。
「眠れないの?」
「いや、もう眠ろうとしていた」
 ささやき返すと、微笑んだ。
 胸元に黒髪が触れる。
 すんなりとした腕が首に回された。
 伸び上がるようにして、耳朶に唇を近づける。
「会えて嬉しい」
 そっと耳にそそぎこまれる言葉。
「もう、離さないでね?」
 ぴたりと合った肌は、まるで自分の皮膚の一部のように感じられる。
 どうして、これと離れていられたのだろう。
 細い身体を抱きしめる。
「離さないさ」
 このさき何があろうとも。

 命の尽きるその時まで。


                       おわり 

     

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