真紀さん奥にて54000番のキリ番ゲットのリクエストは「マリエにデレデレするカイル」です。お父さんっていつだって娘にデレデレでしょうね。


MY SWEET LOVER



「お願いがあるの?」
 黒い瞳が私を見上げる。ほんの少し首をかしげると、豊かに波うつ黒髪が肩からさらさらと流れた。
「なんだい、なんでも言ってごらん」
 私はとろけそうな声でこたえながら、ふっくらとした頬を手のひらで包んだ。
 やっぱり、髪は伸ばした方がかわいい。耳元に覗くのは、昨日与えたばかりの耳飾りだ。さっそく付けてくれたんだな。やはり似合っている。
「あのね、マリエ、鳥が飼いたいの」
「分かった、さっそく人をやって捜させることにしよう。南方の鳥は美しいと聞く。使節をバビロニアに派遣しても・・・」
「カイル」
 小さな咳払いに、私は顔をあげる。
 あまり甘やかしてはダメ、とユーリがしかめっ面をしている。私は平然とマリエの髪を撫でた。
「マリエは兄さまたちと同じのが欲しいの」
「デイルたちと・・・って鷹の子か?」
 私は少しばかり落胆する。女の子には美しい声で鳴く綺麗な鳥の方が似つかわしいと思うのだが。
「そうよ、マリエ、自分で鷹狩りをするの」
「鷹狩りなどしなくても、やがては捕らえた獲物を捧げる男たちがたくさん現れるぞ」
「でも、マリエ自分の鷹が欲しいの」
 必死な瞳がいじらしくて、私はうなずくしかない。
「分かった、鷹だな。ヒナから育てるんだぞ?」
 マリエの顔が輝いた。
「ほんと、父さま? だぁいすき!」
 ぱっと腕を伸ばすと、私の首にしがみつく。柔らかい唇が頬に触れた。
 甘い柑橘系の香りが鼻腔に広がる。これはマリエのために調合させた香だ。
「兄さまたちに、マリエも鷹をもらうって言ってくる!」
 すとんと床に飛び降りると、はしゃぎながら戸口に向かう。
 私自身で何着もの中から十分に吟味して選び出した華麗なドレスがふわふわ揺れる。
 白い布に一面に金糸で小花模様が縫い取ってある豪華なものだ。
 やはり、似合っている。
「カイルって、マリエに甘くない?」
 ユーリが呆れて肩をすくめる。
「鷹の子を育てるのは難しいのよ? そんなに簡単に許すものじゃないわ。それにね、あのドレス! 子どもなんてすぐ汚すんだから、あまり贅沢な格好をさせても」
 私は立ち上がり、ユーリの身体に腕をまわした。
 先ほどまでマリエを座らせていた膝の上に、こんどはユーリを抱き上げる。
 抱きしめた身体からは、私と同じ乳香の香り。ユーリは香油をつかわないので、これは移り香だ。それはそれで悪くないのだが。
「私がマリエに甘くなってしまうのは、おまえのせいだよ」
 ほとんど飾りのないシンプルなドレス越しにユーリの背中を撫でる。
 じつはマリエのと同じ小花刺繍のドレスを贈っていたのだが、いまだそれを身につける様子はない。
「あら? それって、あたしがマリエに手をかけてないってこと?」
 不満げにふくらませた頬を指でつつく。
「いや、おまえは充分子どもたちに手をかけているよ。私が嫉妬するほどにね」
 そう、子どもたちにせがまれてお話を語り聞かせているうちに一緒に寝入ってしまって私に待ちぼうけを喰らわせたことも何度もあるのだ。
「嫉妬だなんて・・・」
 頬を染めて口ごもったユーリの胸元をつつく。ハディが口うるさく言うからか、ようやくつけている首飾りはシンプルな玉を連ねただけのものだ。
「あのドレス、着てくれないのか?」
「だって、あんなの似合わないよ」
「マリエには似合っていただろう? 同じデザインの服が、そっくりなお前に似合わないはずがない」
「あたしのはもっと胸が開いているよ」
 私がほどきかけた胸のリボンを押さえると、上目づかいに抗議する。
「そりゃ、マリエはまだ子どもだからな」
 素早くすべり込ませた手のひらに、しっくりと馴染んだふくらみを感じる。
 ぴくりと身体の揺れたユーリの髪を素早くかき上げる。指先に感じる滑らかな髪の感触はすぐにすり抜けてしまう。もう少し伸ばしてくれたなら、何度も指に巻きつけて存分に楽しむことが出来るのに。
「髪を伸ばしてくれないのか?」
「だって、うっとおしいじゃない」
 すでに淡く染まった耳朶には、やはりシンプルな耳飾りが揺れている。
「昨日贈ったものは、気に入らなかったのか?」
 贈ったのはマリエとおそろいの細い金線と宝玉を編み上げて繊細な蝶をかたどったものだった。
「だって、あんな上等なの・・・」
「マリエはすぐにつけていたぞ?」
 耳飾りごと口に含む。複雑にカーブする耳稜に舌を這わせると、小さく息を飲むのが聞こえた。
「なにか、欲しいモノはないか?」
 ささやきながらそっと裾をたくし上げて訊ねる。
 ユーリはかぶりをふると私の首に腕を巻きつかせた。
「・・・ないよ・・・」
「ほら、な?」
 なにが、と問いかける唇を素早く塞ぐ。
 ねだっても着飾ってもくれない妻の代わりに、妻と同じ顔でねだって着飾ってくれる娘に甘くなるのは仕方ないだろう?



「父さま、見てみて!」
 マリエがぴょんぴょん飛び跳ねながら手の中に包んだヒナを見せる。
「マリエ、ヒナは弱いのだからあまり触っちゃだめよ?」
 立派にヒナを育て上げた経験のあるユーリは、指を一本立てて言い聞かせる。
「はぁい」
「それに、父さまにお礼を言った?」
「まだ!」
 マリエは私の方に背伸びすると、満面の笑顔で言う。
「父さま、ありがとう!」
「大切に育てるんだぞ?」
「うん!」
 デイルがエサの作り方を教えると声をかけると、ピョコンと跳びはねてそちらを振り返った。
 駆けだしていく後ろ姿を見送りながら傍らのユーリを引きよせる。
「おまえもあれくらい素直だといいんだがな」
「どうせあたしは素直じゃありませんよーだ」
 唇を尖らせたユーリの髪をかき上げる。
 黒い髪の陰に隠れて、蝶の形の耳飾りが揺れている。
「やはり、よく似合う」
「そう・・・かな? でも・・・」
 赤らめた頬を包むと、黒く輝く瞳をのぞき込む。
「お礼を言うのが恥ずかしいのなら、態度で示してくれてもいいんだぞ?」
 バカ、と小さな声で呟いたのを聞き返すひまもなく、素早く唇がかすめられた。



      おわり

    

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