夜想

                                        by yukiさん


月明かりの差し込む窓の下で腰にぶら下げた袋を外す。
袋の口を緩めて小さなタブレットを取り出した。
言葉が刻まれているわけではないけれど、たったひとつの記号があたしの胸を暖かく満たしてくれる。
これを教えた時の皇子の言葉が何度もよみがえる。


『心を伝えるのにおまえの国ではどうするんだ?』

皇子は心を伝えたいと言ってくれた。
じゃあ皇子の心は?

『わたしの国では女を愛しいと思えば抱く。それが心を表す唯一の方法だからだ』

ちゃんと言葉で伝えてくれたことなんて無かった。
いつだって本気なのか、からかわれているだけなのかわからなかった。

『女を愛しいと思えば』

皇子は本当に愛しいと思った時だけ相手を求めるの?

『心を表す唯一の方法だから』

ウソばっかり。
その視線でどれだけの女の人をふりまわしてきたの?

掴まれた手のひらに描かれた記号。
そのうえにそっとほどこされた口付け。
ゆっくりと開かれたまぶたの下からは琥珀の瞳が現れる。
見上げる視線には笑いなんて微塵も無い。

『くちびるは―――』

やわらかい髪が頬にふれる。

『拒むことを許さない。これはわたしのものだ』

胸に皇子の重さを受け止めてゆっくりと瞼を閉じた。


琥珀色をした月にあの瞳を思い出す。
あたしはまだ自分の気持ちを伝えてない。
それどころかずっと素直じゃなかった。

ねぇ、皇子は今どのあたりにいるの?
あたしは皇子に会いたいよ。


END



    

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