風の力

                   by琴那さん


 小さい頃・・あれはピアと中庭で遊んでいた時だった。

「デイル?」
 母上の小さな悲鳴が聞こえて、その夜僕は父上に呼ばれた。

 父上の膝の上で、僕は中庭で遊んだ時の話をした。
「小石をね、小さい順に並べるの!! でね、段々にするのっ!!」
「そうか、上手に出来たか?」
「うんっ!! いっぱい段々に出来たよ!」
「デイル、石を段々にできるのは、デイルじゃないと出来ないんだ」
「僕じゃないと出来ないの?」
「あぁ、デイルだけだ」
 どうして父上がそんな話をしたのか、僕は不思議だった。
 だって、僕にそんな特別な力があると思わなかったから。
 小石に向かって念じれば、みんな石が浮くものだと思っていたから。
 ピアはまだ小さいから出来ないだけで、他の皆は当然できると思っていた。
「人は人の心に従うんだ」
 小さく呟いた父上の言葉の意味は曖昧で、でも何故か僕はずっと覚えていた。

「母上っ!!!」
 気がついた時は遅かった。

 ピアの練習という名目で遠乗りに出掛けたまでは良かった。
「迎えに来たわ♪」
 そう言って笑顔で母上が来るまでは。
「親子水入らずでピクニックなんて久し振りぃ〜」
 一人ルンルンな母親を横目に、僕とピアは王宮で顔色を変えている父上の姿を思い浮かべた。

「どうする?」
「どうしよう」
「先に帰すか・・・」
「帰るのなら」
「一緒に帰るか?」
「・・・・」

 ぼそぼそと二人で今後の対応を考えていた時だった。
「でいるぅ〜ぴあぁ〜!!」
 頭上で母上の声がした。
 見上げると、そこには緑の茂った木々の遥か上から手を振る皇妃の姿。
 ・・・眩暈がした。
「何をやっているんですか!? 下りてきてくださいっ!!」
「すごぉぉぃ! 見晴らしが良いわよ〜2人とも早くいらっしゃいよ〜」
 細い足をバタバタとさせて、嬉しそうな声を上げている姿は4児の母親とは到底思えない。
「ケガでもしたら大変ですっ!!下りてきてください!」
 焦ったピアが木の下へ駆け寄ろうとした瞬間。
「ひゃっ」
 ぐらりと上体が揺れて、木の葉がパラパラと落ちてきた。
「「母上!」」

 スローモーションでバランスを崩した母上が頭から落ちて来るのが見えた。
 ピアの叫び声が聞こえたけれど、次の瞬間は無意識だった。
 パラパラと落ちて来た緑の葉がゆっくりと表裏を反しながら、小さなつむじ風に巻き込まれて行く。
 やがて大きな渦になった風が母上の身体を包み込んで、地面へと溶けて行った。

 葉がクッションになって、地面に下りた母上は笑顔を見せる。
「母上、お怪我は?」
 ピアに笑顔を見せながら頷くと、僕に向かって母上は舌を出した。
「やっぱり、カイルの子ね」
 僕は黒髪についた葉を取りながら、仏頂面をしていた。
 言う事を聞かない母親に対してと、風の魔力を使った自分に対して。
「・・・父上には内緒にして下さいよ」
 物心ついてから父上のあの日の言葉の意味が分かり、それ以来使ったことが無かったから。
「はぁい、大丈夫よ。言ったら私が木登りしてたのばれちゃうし♪」
 僕はため息をつきながら、ピアに帰り支度を言いつけた。


 帰りの馬上で母上は「なんか懐かしくなっちゃった」と言いながら、昔の話をしてくれた。
「後宮の城壁から落ちた時に、カイルも風の魔力で助けてくれたのよv」
 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・父上も使っているんじゃないですか(怒)

 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・に、しても。

 なぜ母上は後宮の城壁から落ちたのだろう?
 (聞かないほうが良いとは思うが)


                           おわり

      

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