あかねさん奥座敷2100番のリクエストは「食べ物ネタ」古代って、どんなものたべていたんでしょうね・・・。


ラヴ・クッキング


「ハディ、パンがこげている・・」
 何気なく、の発言だった。執務の合間の軽食時。
 私は、後宮まで戻ると、いつになくじゃれついてくるユーリをかたわらに、パンを取った。指先に、違和感があった。
 こげて硬くなった裏面が触れたのだった。
 ユーリの顔がさっと曇った。
「ごめんなさい・・」
「え?」
 みるみるうちに、黒い瞳に涙が盛り上がる。
 な、なにがあったんだ・・!?
「そのパンは、ユーリさまが焼かれたのですわ」
 ハディがおずおずと言った。なぜそれを早く言わない!?
 あわててフォローに入る。
「そうか、ユーリが焼いたのか美味いぞ」
「まだ・・・食べてないじゃない」
 涙に潤んだ瞳で、冷静にユーリが指摘する。
 私は慌ててパンをちぎると(かなりの力を要した)口に詰め込んだ。
「うん、うまひゃい・」
 パンは、ごわごわしてのどにつかえた。しかし、愛のなせるワザか私は一気にそれを飲み込んだ。
「初めてにしては、上出来だ」
「初めてじゃないの」
 鼻をすすり上げながらユーリが言う。
「・・?」
「以前から何度か作っておられたのですが・・その・・・今回、なんとか陛下にお出ししても良いかと思われるものが出来ましたので」
 またしてもハディが説明する。
 ぬう・・これはユーリの自信作だったのか。それも何度も実験(?)を重ねた結果の。
「で、味見はしたのか?」
 ああ、馬鹿なことを訊いてしまった。案の定、ユーリの肩がびくりと震えた。
「・・唯一それだけが焼け残りましたので・・」
 控えめな態度を崩さないまま、ハディ。
「・・・カイル・・美味しくないの?」
 不安そうな声が震える。
 私はパンをちぎると、むりやり口の中に押し込み笑顔を作った。
 あとで、キックリに胃薬を持ってこさせなければ。
「いや、美味いよ。見た目は少し悪いが、味は悪くない」
 壁土を食べたらこんな味だろうか?まともな材料を使っているはずなのになぜ、ここまで味は進化するのだろう。料理は謎だ。
「・・ほんと?」
 ようやくユーリの表情が明るくなり、とんでもないことに残りのパンに手を伸ばしてきた。
「ああ、本当だとも!!」
 奪い取るように残りのかたまりをつかむと、口に入れる。かなり、大きかった。
 ふがふが。
 一瞬あっけに取られてそれを見ていたユーリが、やがて花のような笑顔を浮かべた。
「カイルったら、お行儀悪いよ。でも、美味しいんだ、それ」
「ああ、ひょうらろも・・」
 めまいを感じながら、必死にうなずく。
 口の中いっぱいのパン(本当にそう呼んでいいのか)は硬くて、噛みも飲み込みもできなかった。涙がにじんでくる。
「良かったですね、ユーリさま」
 ハディが微笑み、ユーリは目尻に残る涙をそっとぬぐった。
「うん、カイルが喜んでくれて良かった。次も頑張るよ」
 次って・・?
 血の気の引いた私を振り返り、ユーリが瞳を輝かせて言った。
「カイルの食べるパンはあたしが焼くの!!」
 ・・・絶句。パンがいっぱいで喋れなかったこともあるが。
「ハディ、いいでしょ?」
 ユーリがあちらを向いた隙に、口の中のパンを引っぱり出し服の下に押し込む。
 様子を見ていたハディが目を丸くしたが、黙っていろと威嚇する。
「ユーリ、お前はそんなことはしなくていい」
 言うと抱き寄せる。
「どおして、あたしやりたいよぉ」
 すねた口調がかわいい。首筋に口づけながら説得する。
「お前は私のために何かしてくれるつもりなんだろうが、もう充分だ。女だてらに馬に乗り戦場を駆け回ってくれた。この上家事までこなしてどうする」
「ハディや双子だって戦場で駆けてたよ」
 いや、そうなんだが。
 どう言おうかと悩んでいる私の腕の中でユーリが身をよじった。
「ね、カイル。あたしカイルのためになにか役に立ちたいの」
 なんて健気なんだろう。目頭が熱くなるとはこのことだ。
「役に立つ、なら他にも方法はあるだろう、お前にしかできない・・」
 我ながらナイスな言い訳を思いついた。
 ユーリの肩先を指でなぞりながらささやく。
「たとえば、私に跡継ぎをくれるとか」
「跡継ぎ?」
 そう、跡継ぎ。肩をはだけると、今度はそこに口づける。
 三姉妹や女官がそっと立ち去るのが見えた。
 ユーリを横たえると、覆いかぶさる。
「ね、カイル・・」
 明るくて恥ずかしいのか?いつまでたっても初々しさを忘れないんだな。
「もう誰もいないよ・・」
「そうじゃなくって・・」
 ユーリの手が、私の胸のあたりを探った。
 大胆だな・・って!?
「ここ、なにが入っているの?」
 服越しにユーリが探っているのは・・。
 しまった!!パンだ!!
 あまりの硬さに触っているユーリにはなにか分からないらしいが、唾液に濡れたパンが隠されている。
 私はうなった。このまま、互いの肌をすり合わせると言う誘惑に負けなければ(つまり私が服を脱がなければ)コトに移ってしまえそうだが、ユーリの疑問は大きくなるだろう。
「カイル?」
「・・・・」
 涙をのむとは、このことだ。
「しまった!!イルから急ぎの書簡を預かっていた」
 急いで体を起こすと、胸元を押さえた。
 書簡だと言っても疑われないだけの硬さをパンは持っていただろうか?
 不審そうに見上げたユーリの上半身はむき出しになっていて、その柔らかさを思うとたまらなく惜しかった。が、仕方がない。
「すまない、ユーリ。急いで仕事に戻らなければ」
 そそくさと立ち上がると、部屋を出ようとする。
「カイル!!」
 背中からユーリの声がかかった。
 振り返った私に、極上の笑顔がむけられる。
「今晩・・」
 続きをするのか?
「あたしのパン、食べてね!!」
「・・・・ああ」
 愛とは、時には耐えることだ・・。

                 おわり
 

      

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