星に願いを

                   by吏季さん



 夕暮れ時、湯浴みを終えたユーリは何気なく空を見上げ、感嘆の溜息を漏らした。
 空にはいくつもの星が瞬く幻想世界が広がっている。
「きれい・・・」
 しばし空に見とれた後、ユーリは小さく溜息をこぼした。
「あーぁ・・・」
 その声が妙に物淋しくて、ひとり苦笑を浮かべる。

 カイルが城塞都市の視察に出掛けたのはもう早半月も前。
 最初は強がっていたユーリもその身に刻まれた花弁が消えると淋しさを覚えるようになった。
 それでも自分にすべてを任せて出掛けたカイルのため、日中は必死に責務を果たす。
 しかし夜になれば淋しさにひとり溜息をつく毎日。
 3姉妹や女官とおしゃべりをしたり、子供たちと遊んだり。
 時間を潰そうとどんなに努力しても結局、同じようにこの部屋で彼へと想いを馳せる。
 彼の、カイルの居室で。

「はぁ・・・」
 今夜、何度目かの溜息をついたユーリは空へ向けたままの視線を横へと向ける。
 そしてそこに空を流れる星の川を見つけ、小さな笑みを浮かべた。
「今日は七夕だっけ・・・織り姫は牽牛に会えたかな?」
 日本の古い昔話。
 引き離された哀れな恋人たち。
 彼らは1年をどんな気持ちで過ごしているのだろうか。
「こんな風に空を見上げて、眠れない夜を過ごしたりするのかな・・・」
 1年間も?
 ユーリは考えて首を振る。
 とてもじゃないが、考えられない。
「あたしなら淋しくて淋しくて死んじゃう・・・」
 バルコニーの手すりに寄りかかって、また溜息。
「カイル、いつ帰ってくるのかな・・・」
 見上げる空は夜が更けるほどに鮮やかに輝き始める。
 まるで吸い込まれそうな星空。
「早くカイルに逢いたい」
 ついて出たのは真実の願い。
「早く帰ってきて・・・」
 祈りに近い切望。
 星に願いなんて子供じみているかも知れない。
 それでも願わずにいられないほどひとりは淋しい。
 いつから自分はこんな風になってしまったのだろう。
 カイルなしでは生きていけない。

「カイルはどうかな?」
 ふと思いついて問いかけてみる。
「あたしがいなくて淋しいかな?」
 今度の視察旅行に最後までユーリの同行を望んでいたカイル。
 結局、イル・バーニとユーリの説得で諦めたのだが。
「今頃、カイルもこうして星を眺めてたりして」
 そして願ってくれてると嬉しい。
「逢いたいよ、カイル・・・」



 どれほどそこでそうしていたのか。
 気づくと夜もだいぶ更けた時刻だというのに城内が妙に騒がしい。
 何事かと部屋から出ると、遠くから微かに聞こえる懐かしい声。
 目を見開いて、その次の瞬間には走り出す。
 廊下に回廊に中庭に。
 星の光の降り注ぐ空の下をユーリは走り続ける。

 そして―――。

「カイル!逢いたかった!!」
「ユーリっっ!?」

 いきなり抱きついて驚いた顔は次第に優しい笑みへと変わる。

「逢いたかったよ、ユーリ」

 抱きしめられて満たされる想い。
 肩越しに見た空には未だ天の川がキラキラと輝いていて。

「大好き、カイル」

 囁いた声は高い空へと溶けて・・・再び星に願いを―――・・・・

                   END
      
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