新米皇妃の一日

          by Lapisさん


「イシュタル様には初めてお目にかかります。想像よりもお美しい方で気後れしてしまいますな」
 正装した白髪の使者はニコニコ顔で一礼をした。

 ・・・本日何人目かの謁見。
 そんでもって何度も聞かされる同じような言葉。
 オリエント一のプレイボーイとして知れ渡っていたムルシリ2世の結婚から早数日。
 カイルの正妃になってまだ日も浅い新米皇妃のあたしとカイルの元に、1日に何百人もの人が謁見を求めてくる。
 ヒッタイトと友好関係にある国の使者やら藩属国の贈り物やら…。
 そんなに一気に来られても…覚えられないよ?

「さすがオリエント一の賢帝と称えられる皇帝陛下でいらっしゃいますな。こんなにもお美しい方を正妃にお迎えになるとは。
 ヒッタイト帝国の御名もより広く響き渡ることでございましょう」
 ヒッタイト皇帝と皇妃に挨拶を終えたその使者は大役を果たしたという満足気な表情。

 ・・・どうしてこうも皆同じ言葉を言うんだろう?
 それはさっきも聞いた気がするっていう思いをしながらも、
「ありがとうございます。貴国の繁栄ぶりもハットゥサに伝わって来ていますわ」
 なんて事を笑顔で言ってみる。
 どこの国の使者なのか・・ちょっと忘れちゃったけどね?
 だって今日だけでもう何十人っていう数の人と会ってるんだもん!
 誰が誰だかなんてすっかりわかんないし、もうくたくた。
 疲労困憊のあたしの横で、カイルはその使者と2,3言葉を交わすと
 チラリとあたしの様子を見た。
 もしかしたら笑顔が引きつっていたのかもしれない。

「皆、今宵は大儀であった。この謁見の続きは明朝に行うとしよう。」
 そう言うとカイルはあたしの手を取って元老議員達が礼をとっている道の真ん中を歩き出した。
 足早にその部屋を出て、扉が閉じられるとひょいっとカイルはあたしを抱き上げる。
 もうこれはすっかりいつものことなので衛兵も誰一人として驚かない。
 急に抱き上げられたことで出そうになった軽い悲鳴はカイルの唇にふさがれた。
 キスを終えると、カイルの不機嫌そうな声。
「・・・最後の使者の表情を見たか?」
「ん?どうしたの?」
 呼吸もまだ怪しい状態で聞き返すともう一度キスされる。
 最後の使者・・・どんな人だっけ?
 もう顔すら思い出せないし。
「・・・絶対にお前に惚れたな。」
 むぅ、とうなりながら真剣な表情でカイルが言う。
「もう…やきもち?」
 諌めるように今度は自分からキスをする。
 それくらいのことでそんな顔しなくても・・・。
 だいたいあたしは顔も覚えていないんだよ?
「だいたいお前が可愛すぎるのがいけないんだぞ」
 じっと見つめられたかと思うと突然カイルはそう言った。
 かぁっと顔が赤くなるのが自分でもわる。。
 ・・・・・そういうことを面と向かって言わないでよ。
 普通の人間には“恥じらい”ってモンがあるのよ?
 カイルには絶対それが欠けてるんだと思う。
 まぁあたしも衛兵の前でカイルに抱っこされてるし…人の事はあんまり言えないけど。
 それもこれもカイルのせいなんだから。
 大人しく抱っこされながら寝所についてもカイルは不機嫌なままだった。
 ここはひとつ、あたしが丸くおさめるしかないかな。
「ねぇ、カイル?」
 子供みたいに拗ねてるカイルに、わざと少し上目遣いの目線を送る。
 寝台に腰掛けているカイルの首に腕を巻きつけてみる。
「なんだ?」
 むむっ。まだ眉間のシワは取れないか。
 もうひと押し。
「あたしね、よく『寵妃』とか『溺愛されてる』っていわれるけど・・・」
 皇帝陛下が気分良く暮らせるようにするのも皇妃の務めよね。
 いつもより少し甘い声で。

「あたしだって、カイルのこと、溺愛してるんだからね?」

 その後、数え切れないほどのキスをされたのは言うまでもない。

                         おわり







               

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