ナッキー☆オールナイト



「いかがですか、陛下?」
「うむ、気持ちがよい」
 ナキアのリズミカルな動きに、シュッピルリウマ一世は目を細めた。
「ああ、これがバビロニア仕込みの腕か・・」
「・・・バビロニアの女が誰しもこのワザを持っているわけではありませんわ」
 ナキアの額に汗が浮かんでいる。
「ううむ・・・」
「さ、陛下」
 言うと、ナキアは皇帝をうながした。名残惜しそうに起きあがった皇帝は、腕を二三度まわすと目を見張った。
「うむ、痛くないぞ!?」
 首筋から肩にかけて、すばやく拳を打ちつけながら、ナキアは微笑む。
「湿布薬を出しておきましょうね、二三日うちにはすっかり元通りですよ」
 皇帝は、嬉しそうに肩を動かした。
「うむ、ナキア姫のマッサージは最高じゃ。ここのところ肩が上がりにくかったが、ほれこのとおり」
「良かったですこと」
 いいながらうなずくと、侍女が用意された湿布薬を捧げ持って来た。
 それを肩に丁寧に貼りつけながら、ナキアがささやく。
「ね、陛下、お元気になられたのなら・・」
「ここのところ肩の痛みでよく眠れなかった、感謝するぞ、姫!!さて、今夜はゆっくり眠るとしよう!!」
 言うと、寝台の上で皇帝は掛布を引っ張り上げた。
「・・陛下?」
 いびきが聞こえた。
「・・・老人は夜が早いというのは本当ですね・・」
 侍女がそっと言う。それをものすごい表情でナキアはにらみ返した。



「あのジジイ、私をあんま師と間違えているんじゃない!?」
 憤懣やるかたなしにナキアが叫ぶ。
「でも、ここのところ、頻繁に御寝所にお召しですから・・」
 侍女がなだめようとする。
「寝所に呼ばれたって、あんまじゃ子供はできないのよ!!」
 地団駄踏んでナキアが言う。慌てて侍女が押さえた。真夜中だった。
「それでも、後宮内じゃナキアさまが寵を受けておられるって評判ですわ。最近では他の側室の侍女達の態度も変わってきました」
「寵って、五十肩やぎっくり腰や椎間板ヘルニアの治療をすること?私が欲しい寵は子種なのよ!!」
 侍女の肩を激しく揺さぶりながらナキアは言う。
 ここのところの頻繁なお呼びは、ナキアが薬の調合が上手く、しかもマッサージにも優れているという評判のためだった。
「・・・姫さま、はしたないですわ・・」
 頬を赤らめて、揺さぶられたせいで髪の乱れた侍女がたしなめた。
「それでも、名前すら覚えていただけない側室がたくさんいます。お呼びがかかるだけでもよろしいではありませんか。姫さまの怪しげな趣味が役に立ったのですね。芸は身を助ける、人間誰しもひとつは取り柄があるんですね・・」
「・・・お前、どういう意味?」
 最後の方は独り言に近かった侍女の言葉を鋭く聞きつけると、ナキアはガンを飛ばした。
 身体を縮めた侍女を一瞥すると、いらいらと室内を歩き始める。
「皇帝はもうトシだし、さっさと子供を作らないと・・私だっていつまでも美しくて知性があふれるままでいられるわけでもないし・・・」
「胸だって垂れてくるし、小じわだって出ますしね」
 もう一度睨まれて、侍女は部屋の隅に避難した。
「私はなんとしても子供を、男の子を産んでその子を皇帝にするのよ!!」
 めらめらと燃えさかりながら、ナキアが仁王立ちする。
「そのために嫁いだんだから!!ジジイのあんまをするためじゃないわ!!」
 感極まって、拳を手近の机にぶつける。机はまっぷたつに割れた。いつもながら見事な腕だった。
「・・・そんな、姫さま。姫さまなら陛下を押さえつけて、引きはがしてぴゅっと搾るくらいできるでしょうに・・」
「・・お前、言うわね・・」
 椅子の背に隠れたままの侍女を振り返ってナキアがあきれた。
「あまりはしたないこと、言うんじゃないのよ。・・・でも、良い手だわ」
「だ、だめです、陛下が死んでしまいます!!」
 青ざめて侍女が叫ぶ。本気にされると困るのだった。
 それを無視してナキアはさらにうろうろと歩き回った。
「そうだわ、なにもこちらが待つことはないのよ、いくらでも方法はあるわ・・」
 鋭く侍女を射抜く。
「お前、セクシーな下着は作れる?」
「セ、セクシー?」
 目を白黒させて侍女が繰り返す。この時代に下着があったかどうか、定かではないが。
「そう、思いっきりセクシー!ジジイがむらむらくるような」
 それくらいの格好なら他の側室だってやっているだろうが、ナキアには勝算があった。
「そして、一服盛る!!」
「毒ですか!?」
「毒を盛ってどうするの!・・・媚薬よ」
 不敵な笑いを浮かべると、ナキアは衣装箱をひっくり返し始めた。乱れ飛ぶ衣装を拾いながら、侍女が訊く。
「姫さま、セクシーってどんなでしょうか?」
「どんなって・・すけすけとか」
「今夜の姫さまの衣装はすけすけでした」 
「手足むき出しとか」
「先週の姫さまのはむき出しでした」
 侍女だって、いろいろ考えてはきたのだった。
 秘かに原因は、ナキアの色気のない性格だと疑っている。
「・・・そうね・・あったわ!!」
 衣装の底に隠されていた小瓶をつかむとナキアは高々とかかげた。
「これが、飲んだら襲わずにはいられないという、私の開発したスーパー媚薬よ!!」
 言うと侍女に押しつける。
「隙を見て、陛下の飲み物に入れるのよ。それと、まだ試作段階で効果を試したいから、おまえ誰かに飲ませなさい」
「はあ?」
「お前が襲われたら、効果があったというコトよ」
 侍女がみるみる青ざめる。
「・・・姫さま・・なんということを・・私、まだ清らかなんですよ・・」
「いつまでも清らかなままでいられると思ったら大間違いよ。この機会に捨てなさい」
・・なにを?
 恨みがましい侍女の目つきを無視すると、ナキアは手を振って彼女を追い払う。
「実験は明日。いつまでも待たせるんじゃないのよ」



 翌朝、朝食後のナキアを見て、他の侍女が首をかしげた。
「姫さまはどうして踊っておられるの?」
「さあ・・?」
 ひとり乳兄弟の侍女だけが、眉を寄せていた。
「やっぱり・・・媚薬の効果はなかったんだわ・・・どうやら、踊ってしまうみたい・・」
 侍女の袖口には、例の小瓶が隠されていた。
「でも、姫さま、結構色っぽい・・これはこれで効果はあるかも・・」



 その後、ナキアが首尾良く懐妊したのは媚薬の効果だったのか・・。


                   終わり      

     

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