星に願いを Version of カイル

                            by 吏季さん



 日が沈んでしまった。

 カイルは漆黒の闇に染まった空を睨み付けて、溜息をつく。
 今日中に戻るはずだったのに。

 城塞都市の視察に出て早半月。
 ようやくその長い視察を終えて、カイルは現在ハットゥサへの帰路にあった。
 しかし夏の乾いた大地を進むのはそう簡単なことではない。
 思うように距離が進まず苛立ちを覚えはじめたのはもう2日も前のこと。
 それでも何とかハットゥサまであと数刻という距離まで来たのだが、残念なことにそこで日が暮れてしまった。
「今日こそはユーリを抱きしめて眠れると思っていたのにな・・・」
「そうですね・・・」
「!」
 独り言のつもりで呟いた言葉に相づちを打たれて、カイルは苦笑を浮かべる。
「まぁ、仕方ないさ・・・皆も疲れているんだ、夜通し走らせるわけにはいくまい」
 後ろに控えるキックリを振り返りもせず、自嘲のまま呟く。
「ですが、陛下のご本心としては本当は今すぐお戻りになりたいのでしょう?」
「・・・そうだな・・・だが、気にするな・・・明日の午前中には戻れる」
 自分に言い聞かせるように言うと、カイルはキックリを振り返って笑みを浮かべた。
「おまえももう休め、明日は早朝から出発するぞ」
「はい」
 キックリは心得ております、と告げるとそのまま下がっていった。

 残されたのは再びカイルひとり。
「ふぅ・・・」
 カイルは再び溜息をつくと、ハットゥサの方角に当たる夜空を見上げる。
 そこには一面の星空。
「今頃、何をしているんだろうな・・・」
 わたしのことを想っていてくれているだろうか。
 バカげたことを、カイルは苦笑してその場に腰を下ろす。
 見上げる星空は夜が更けるほどに鮮やかになっていくようだった。
 不意に夜空の中にひときわ輝く一筋の星々の川を見つける。
「天の川か・・・」
 いつかユーリに聞いた悲しい伝説。
 引き離され、一年に一度しか逢うことの許されない哀れな恋人たちの物語。
「逢いたくとも逢えないのか・・・」
 それはいつか自分も経験したことのある痛み。
 どれほど自分の無力さを呪っただろう。
 そう、だから自分はあの時誓ったはずだった。
「もう二度とユーリをひとりにはしないと・・・」
 呟いて勢いよく立ち上がる。
 そしてキックリを呼ぶために踵を返そうとして、思わずその琥珀色の瞳を大きく見開く。
「ご用意はできておりますよ、陛下」
 そこにはニッコリとすべてを見透かしたように笑う、彼の忠臣がいた。



 夜が更けるにつれてより鮮やかに輝きはじめる星空の下、カイルは王宮へと滑り込んだ。

 もう眠ってしまっているかもしれない。
 それでもカイルには構わなかった。
 細い身体を抱きしめて眠り、そして朝一番にその明るい笑顔を見られるのならそれで十分。

 慌てた様子で出迎える元老院の長老たちを振り切り、王宮を抜けて後宮へと足早に向かう。
 しかしすぐに後宮から王宮へととんぼ返りをするハメになる。
 ユーリの、皇妃の寝室はもぬけの殻だった。
 ならば向かう先はひとつ。
 廊下に回廊に中庭に。
 星の光の降り注ぐ空の下をカイルは足早に通り過ぎる。

 そして―――。

「カイル!逢いたかった!!」
「ユーリっっ!?」

 いきなり抱きつかれて驚いたのはほんの一瞬。
 そのあとは自分でも呆れるほどの甘い笑みを浮かべてその身体を抱きしめる。

「逢いたかったよ、ユーリ」

 抱きしめてようやく満たされる想い。
 覗き込んだ黒い瞳には天上の星々が美しく映しこまれていて。

「大好き、カイル」

 空へと溶けた告白を唇で受け止めて・・・再び女神に永遠の愛を誓おう―――・・・・



             END

     

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