星祭りのあと

                by吏季さん




「陛下!ひとまずお湯をお使いください!」
 明らかに苛めとした思えない女官長の手によってユーリと引き離され、湯殿に放り込まれた。

 せっかく久しぶりに再会したユーリと片時も離れたくなかったのに。
「まったく余計なことを・・・」
 溜息をついて全身の力を抜く。
 途端、疲労が蓄積していたのか身体が急に重くなったような気がする。
「まぁ・・・1ヶ月かかる日程を半月でこなしたのだから当然だな・・・」
 ひとり呟いて苦笑する。
 不思議と疲労はあってもそれを辛いとは思わない。
 それはきっと満たされた想いがあるから。
 カイルは再度苦笑して、湯の中に勢いよく潜った。



 旅の埃を落とし、湯殿を出るとそこにユーリがいた。
「どうした?」
 壁に寄りかかり、物鬱げに自分を見上げるユーリに不意に不安になる。
 しかしそんなものは無言で伸ばされた両腕を見るとすぐにどこかへと消えてしまった。
「ユーリ・・・」
「ん・・・」
 微かに口元を綻ばせたカイルの首にほっそりとした腕が絡みつく。
 そのまま抱き上げれば、ニッコリとした笑みが向けられる。
「待っていたのか?」
「うん」
「そうか」
 頷いて歩き出すと、ユーリが首を振る。
「そっちはダメ」
「?」
 足を向けたのは後宮の最奥、皇妃の部屋。
 疑問符を浮かべたカイルにユーリは王宮への回廊を指さす。
「あたしの部屋じゃあ、すぐ着いちゃうじゃない?だからあっち」
 カイルは目を見開いた、その次の瞬間には優しく微笑んで、その場でユーリの唇を塞ぐ。
「ん・・・っ・・・」
「どうしたんだ?やけにかわいいことばかり言うじゃないか・・・」
「別にぃ」
 からかうように問い掛けると、ふいっと顔を背ける。
 それでも絡まる腕が緩むことはない。
 カイルは苦笑して、王宮へ続く回廊をゆっくり進む。
「あのね」
「うん?」
「すごくすごく逢いたかったの」
 肩に顔を埋めて、絞り出すように囁かれるのは小さな告白。
「わたしも・・・逢いたかったよ」
「ホントに?」
「あぁ、本当だ」
 頷くと顔を上げたユーリが嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しい・・・あのね、何度も何度も夢を見たの・・・カイルの夢」
「わたしの夢?」
「うん・・・でもカイルの姿を見ようと目を開けると全部幻だって気づくの」
 カイルはくすっと笑った。
 いつの間にか王宮の皇帝の間の目の前にたどり着いていた。
「大丈夫、今夜からは消えないよ」
「うん、知ってる」
 ふたりで顔を見合わせて、微笑みを交わす。
「ユーリ、愛してる・・・」

 カイルの囁いた言葉を最後に皇帝の間の扉がゆっくりと閉まっていった・・・



                     
END

    

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