anaさん、奥座敷にて56789番のキリ番ゲットのリクエストは「チビウルヒの恋路を邪魔するデイルとピア」 あるいは「チビウルヒとマリエの仲を取り持つデイルとピア」だそうです。あの二人、シスコンそうですね。


この胸のときめきを


「お誕生日にもらった馬、見に行かない?」
 お昼ご飯のあと、思い切って声をかけた。
「うま?おっきいの?」
 そう言うと、マリエちゃんは大きい目をさらにいっぱいいっぱい大きくした。
 黒い瞳がきらきら光って、ボクはぼうっとなってしまった。
 えっとね、なんて言うんだろう?
 月の出てない夜のお星さまで一杯の空。あんな感じの吸い込まれそうな目なんだ。
「・・・うん、大人用の」
 ボクは目を伏せてしまう。ほっぺたが熱い。
「すごいなあ、乗れるの?」
 マリエちゃんはすぐに厩舎に走って行きたそうに、ボクの手をぎゅっと握った。
「マリエはね、まだおっきいのは乗せてもらえないの」
 ボクはマリエちゃんの手の柔らかさを感じながら、おばあちゃんに感謝した。
 マリエちゃんが馬が好きだって教えてくれたのは、おばあちゃんだった。
 えっと、将を射んとすれば・・・馬を見せろだっけ?
 女心をゲットしようと思ったら、そういうコソクな手をちまちま使えって。
 ・・・コソクってどういう意味だろう?
「ねえ、早く見せて!」
 マリエちゃんはボクの手をますます強く握る。
 おばあちゃん! ありがとう!!
「へぇ・・・馬、ねえ」
「そういえば、ここらあたりでも良い馬が育つってきいたなあ」
 いきなり話しかけられる。
「あら、兄さま」
 マリエちゃんはくるんと振り返った。その拍子に髪が揺れて、ふわっと良い匂いがした。
「ぼくたちも馬が見たいな」
「見せてくれる?」
 そう言っているのは、デイル皇子とピア皇子だ。二人とも、ボクより背が高い。
 ボクを見下ろすように腰をかがめている。ピアなんてボクよりひとつ上なだけなのに。
「いい・・けど」
 ボクはがっかりした。マリエちゃんだけに見せようと思っていたのにな。
 でも、断ったりできないし。
 デイル皇子はこの国の皇太子で、ゆくゆくは皇帝陛下になるんだそうだ。
 そして、その時はピア皇子は近衛長官になるんだって。
 おまえもやがてはお二人を助けるんだよ、と、父さまは言う。
 あなたはお二人に一番近い皇族だもの、しっかりするのよ、と、母さまは言う。
 それにね、母さまは声を潜める。
 唯一の皇女さまのマリエ姫とは、あなたが一番身分が釣り合うんじゃないかしら?
 それって、つまり・・・ボクたちって、『お似合い』ってこと?
 ボクはどきどきしながらマリエちゃんを握る手に力をこめようとした。
「マリエ」
 でも、マリエちゃんの手はすっぽりとボクの手のひらの中から抜けた。
「一緒に早駆けをしようか?」
 デイル皇子が、マリエちゃんを抱きよせている。
 くるくる巻いた黒い髪に指を巻きつけながら、にっこりと笑う。
 ・・・いいなあ、ボクも触りたい。
「兄さま、乗せてくれるの?」
 マリエちゃんの声が弾んでいる。ボクだって、一緒に乗りたい。
 走る馬のスピードにしがみつくマリエちゃんに「ほら、綺麗な風景だよ」って言ってあげたい。
 でも、ボクはまだ大きい馬は一人で落ちないように乗るのがやっとなんだ。
 しゅんとなったボクに気付かないように、デイル皇子が首をかしげる。
「う〜ん、それともジュダ殿下が乗せてくれるかな?」
「ボク、まだ人は乗せられないから・・・」
 真っ赤になって俯いてしまう。
「ふうん?」
 ピア皇子の声は本当は最初からそのことを知っていたみたいだった。
「まだダメなのかあ」
 ・・・ボクは泣きたくなった。だって、マリエちゃんの前でかっこわるいよ。
 デイル皇子とピア皇子が馬に乗るのが上手くて、武術も勉強も優れているってことは、よく大人たちが言っている。
 ボクは血のつながった従弟だけど、どれもこれもさっぱりだめだ。
「さあ、マリエ、行こう。兄さまたちと一緒なら安心だよ」
 そして、マリエちゃんの手は右はデイル皇子、左はピア皇子にしっかり握られてしまった。
 ボクはとぼとぼと三人の後を着いていくしかなかった。



 厩舎の中で、ボクの馬は嬉しそうに首を振った。
「へえ、良い馬だね」
 デイル皇子が感心したように首を撫でる。
 父さまがたくさんの馬の中からボクのために選んでくれた駿馬だ。
 ほとんど黒に近い濃い茶色の馬だけど、優しい真っ黒な瞳を持っている。
「ちょっと走らせていい?」
「うん・・・」
 ボクはしょんぼりと肩を落とした。
 本当なら、マリエちゃんと二人で、馬の名前のことやなんかを話していたかったのに。
 触ってごらん、ってたてがみを撫でさせてあげても良かったのに。
 ボクの馬は、久しぶりに思いっきり走れることが分かって嬉しいのか、さかんに蹄を踏みならしている。
「ボクも乗りたいな、他の馬に鞍をおいてよ」
 ピア皇子の弾む声もする。
 まだ、早足がやっとのボクは賑やかな声を聞きながら、ワラ山の上に座った。
 おばあちゃん、どうしよう。全然ダメだよぉ。
 もっとコソクな方法、教えてよ。
 くすん。
「名前はなんていうの?」
 ぱふっと、ボクの隣りに座ったのはマリエちゃんだった。
「ええっ!?」
 さっき、皇子たちは出て行ったはず。厩舎係が見事な手綱さばきだとほめていた。
 一緒に乗っていったんじゃなかったの?
 目を丸くしたボクに、マリエちゃんはほっぺたをふくらませた。
「マリエを乗せるのは、兄さまたちが思いっきり走らせてからなんだって」
 それから、首をかしげてもういちど質問した。
「ね、うまの名前ってなぁに?」
「・・・ドゥムジ」
 ボクは小さな声で答えた。
 黒っぽい馬だから・・それに。
 マリエちゃんの顔がぱあっと輝いた。
「すてき! 女神さまの恋人の名前ね!」
 むくれた顔もかわいいけど、笑った顔はもっとかわいくて、くらくらする。
 くらくらしているボクの手をとって、マリエちゃんはにこにこした。
「マリエの名前はねぇ、女神さまとおんなじなの」
 うん、知ってるよ。だから、女神さまに関係ある名前をつけたんだ。
 ぼうっとしたままのボクに、マリエちゃんがたずねる。
「ねえ、ジュダ殿下はドゥムジとよく出かけるの?」
「・・・まだ、走らせるのはむりなんだ。馬場の中でだけ・・・」
 恥ずかしくなってうつむいてしまう。
「マリエもねぇ、まだなの。だから、ね?」
 信じられないことに、マリエちゃんの顔がボクに近づいた。
 耳にかかる息がくすぐったい。
「早駆けができるようになったら、兄さまたちにはナイショで、二人ででかけようね?」
 二人っきりで?
 皇子たちにないしょで?
 ボクは真っ赤になって、なんどもなんどもうなずいた。
「じゃあ、約束! 約束の時はこうするのよ?」
 小指と小指をひっかけて、勢いよくふりながら。
「指切りげんま〜ん、うそついたら、ハリセンボ〜ンの〜ますっ!」
 ボクは幸せのあまり、今日はもう手を洗わないぞと決心していた。


                   おわり

   

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