anaさん、奥にて58000番のキリ番ゲットのリクエストは「幸せなラムセス」です。はたしてこのサイトで幸せな人っているんだろうか・・・?(あ、ナッキーか!)



おまえがパラダイス



「また、お出かけですか?」
 呆れたように副隊長のワセトが言った。
 オレは丘の麓でみつけた小さな花に青いリボンを巻き付ける。
「こういうのは、マメさが一番だからな」
「でも」
 ワセトはオレの手元に視線を落として口ごもる。
 オレは出来上がった花束を目の高さに掲げてくるりと回す。
 うむ、気取ったところがなく、小さくて可憐だ――――― 贈る相手のように。
「確かにマメですけど、それが贈り物なんですか?」
 ワセトは眉根を寄せる。
 思い返せばこいつはいつも困惑しているな。苦労人なのかも知らない。
「仮にも、皇子の宮に勤める女官なんでしょう?もっと立派な装身具やなんかを」
「女官じゃねーよ」
 オレは身体を起こすと、花束を潰さないようにそっとベルトに差し込んだ。
「そういうちゃらちゃらしたのじゃ喜ばない相手なんだ」
 そう、粋を尽くした箱一杯の宝飾品を見ても、まずオレのコネを作るべき相手を心配したやつだ。
 あの広大な宮の中で、着飾ることなく少年のように簡素な短い衣を纏っている。
 オレが国から持参したアクセサリーがその身を飾ったことはいまだに一度もない。
 女どもが争って手に入れようとするエジプト製のアクセサリーだぜ?
「・・・なんだか、隊長がいままでつき合ってた相手とは違いません?」
 ワセトは肩をすくめた。こいつとは長いつき合いになるので、オレの過去の女関係を熟知してこんなことを言うってわけだ。
 そりゃ、今でもオレの好みは酸いも甘いもかみ分けた、色っぽい大人の女だ。
「ああ、全く違うな」
 自然と苦笑する。まあ、一見ぱっとしない女だが。
 だが、ほかの女にはない美点がある。
 まず、男の邪魔をしないだけではなく、役に立つ。
 多少口は悪いが頭の回転は速い。
 身体は少々発育不足だが、なに、まだまだ若い。男次第でどうにでもなる。
 基本は悪くないんだし、磨けば化けるかもしれない。
 あの皇子だってその気は充分であいつをそばに置くんだろう。
 もちろん、女の扱いはオレだって手慣れたもんだ。
 オレは口笛を吹きながら、剣を腰に差した。
「出かける。夕刻には戻る」
「えっ!?」
「なんだよ?」
 オレが兵舎で夜を過ごすのがおかしいのか?・・・おかしいわな。
「そいつんところには、泊まりにうるさいヤツがいてな」
 それだけ言うと背を向ける。ワセトのため息が追いかける。
「まったく、どんな箱入りのお姫さまなんですか」
 いや、お姫さまじゃなくって、ご側室さまだよ。
 そう言ったらこいつは腰を抜かすだろうな。
 オレは片手を挙げると兵舎を後にした。




「なんで毎日くるのよ!?」
 オレのお姫さまは腰に手を当てて仁王立ちになっていた。
「そりゃ、あんたに会いたいからさ」
「あたしは会いたくないの!」
 まったく、つんけんしたもんだ。
 初めて宮に伺候したとき、キスしたのをまだ怒っているのか?
 あんなの軽い挨拶だぜ、目くじらを立てるほうがどうかしている。生娘じゃあるまいし。
「そう冷たくするなよ、ほれ」
 オレはちっぽけな花束を差し出した。
 黄色い中心を白い小さな花びらがぐるっと取り囲む、オレの国ではいたるところに生えている花だ。
 ただし、見かけほどささやかな花でもないんだぜ?
 踏みつけられてもどんどん育ち、いつの間にかあたりを埋め尽くす。
 おまけに花も葉も薬になる。
「なによ!」
 振り払おうとした手が止まる。
 ほら、な?
 迷った末に花に手を伸ばした顔がふとほころんだ。
「これ、カモミール?」
「そういう名前なのか?オレの国では別の名前だが・・・地味だけど良い香りがするな」
 はっとしたユーリが思いっきりしかめっ面を作った。
「言っとくけど、受け取ったわけじゃないからね!萎れたらかわいそうだから」
「はいはい、かわいそうね」
 オレは余裕たっぷりにうなずいて見せる。
「じゃあ、さっさと花瓶に挿せよ」
「言われなくても! ねえ、ハディ!」
 くるりとユーリが背を向けて、花の香りが漂った。素朴でほのかに甘い香り。
 こいつに似合うじゃねえか。
 うん、あの切れ者殿下の嫌みったらしい乳香なんかよりは。
 ぱたぱたと裸足で部屋を横切ったユーリは、女官たちが持ってきた花瓶を真剣に選び始める。
 あんなどこにでも咲いている花を活けるための花瓶を、だぜ?
 耳に心地よい澄んだ声がはずんで、とうとう満足のいく一つを選び出した。
「うん、これ。ちっちゃくてちょうどいいよね?」
 手のひらに乗るくらいの、飾り気のない丸い花瓶。
 オレの摘んだカモミールは、その中でちょこんと揺れた。
「窓の所に置いておこう、お日さまがいっぱいあたるから」
 ひょいと窓枠によじ登ったご側室さまは、そっと花瓶を置くと、膝を抱えて目を細めた。
「ここなら、いいよね?」
 花に向かって話しかけているのか?・・・なんというか・・・かわいい。
 まるで日だまりに丸くなる猫のように、ふくふくと笑いながらユーリは続ける。
「おまえ、リボンなんてつけて。おめかしだね」
 そのリボンはオレが選んだんだぜ?
 そう言いかけて、オレは言葉を飲み込んだ。
 話しかけたらまたしかめっ面だろう。
 それくらいならもう少し、この毛色の変わった子猫を眺めていたっていいだろう?


 『小さな太陽』それがオレの国でのこの花の名前。
 オレの目の前で、小さな花と小さなユーリが日だまりのように笑った。


                     おわり

     

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送