夏の日

                     by あーやさん


   父上はたまに思い出したようにお話をしてくれることがあった
   幼い私を膝の間に座らせ 
   大きな中庭の木によりかかり 
   お話してくれることがあった

      父上の母上様のこと 
      つまり私のおばあ様のこと。
      彼女のことを心から尊敬していたということ おばあ様と父上の思い出
      彼女が困ったようにはにかむ笑顔が何より好きだったということを。

      けれどいつも決まって父上は 
     
     「だけどそのおばあ様も かあ様。ユーリにはかなわないよ。
      母上はユーリのように剣を持ち、馬に跨って戦場を駆けるようなことはなさらなかったからな」
      と声を上げて笑う父上の笑顔が私は一番好きだった


  父上は時折寂しそうな切なそうなお顔をされて
  お話をされることもあった
  そういう時は決まって国の英雄達のお話をしてくださった

  ザナンザ叔父上 

  最後を看取ってやることすらできなかったと
  父上はいつも叔父上のお話をしてくださるとき、うっすらと涙を浮かべていらした

  ウルスラにティト 

  この二人はどちらもひたすらに かあ様の幸せと 栄光を祈り かあ様を守るために
  家族も婚約者も手に入りかけた幸せすらも捨てて散って言ったのだと
  語る父上の目には寂しさ 切なさ 悲しさにまじっていつも誇らしげな輝きを感じ
  少しうらやましく思ったことを覚えている

  ルサファ

  かあ様を最後まで守り抜くことのできなかった最高の戦士だと父上は彼を語った
  かあ様を守り抜けなかったのに何故最高の戦士なのかと問うと父上は決まっておっしゃった
  「ルサファは最後にかあ様を守って散っていったからさ。」
  と。
  その答えは幼い私をますます混乱させたが それ以上の質問を父上の遠くを見つめる目が
  それを許さなかった



 そしてエジプトにいる彼のこと

 ウセル・ラムセス 

 父上が好んでこの男のことを話してくださることは一度もなかったが
 いつも、エジプト戦での母上のお話をしてくださる時は
 思い出したように 琥珀色の瞳を熱く燃えさせ話してきださった
 その時私は初めて 少年のように瞳を輝かせた父上の目を見た
 きっと父上は気づいていらっしゃらないのだろうが
 直接争うことなどなくなった あの頃でさえも彼のことを話す父上の琥珀の瞳は挑戦的に輝いていた


暑い暑い夏の日に 父が教えてくれた奇跡

そしていつも話しの終わりには女神が微笑んでいた

    やさしすぎてよく心を痛めては
    その思いが民を動かし
    どの武将よりも勇猛果敢に戦場を駆け回り
    兵士を守護する
    女神

 父上はかならず最後こうしめくくった
 「全ては奇跡の始まりだった」
 と、中庭に通ずる扉に姿を見せた女神に微笑みながら。



         夏の容赦ない日差しの中で 
         自分の宮をかまえた今も 
         ふと思い出すのはあの頃の 父の膝で聞いた奇跡のエピソード



    

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