ストリッパー



              カイルの手があたしの腕にかかった。
             「恥ずかしがらないで見せてごらん」
              隠していた顔がそっとあらわになる。
              部屋はいつもより明るい。だからつい、見おろす琥珀の瞳から顔を背けてしまう。
             「あいかわらずだな」
              カイルは苦笑しながら、顔の両脇に腕をついて支えていた身体を起こした。
             「見られるのが、いやか?」
              言いながら、そろえていた両膝に手をかけて開く。
              いつもと同じ手順。だけど、いつもよりもあからさまな視線。
             「だって」
              喉から出る声はかすれている。
             「恥ずかしいよ」
              身体を見られることには、慣れた。
              もうなんどもカイルの前で身体を開き、彼に愛された。
              だから、恥ずかしいのは別のこと。
             「どうして?もっと堂々としていればいいのに」
              くすりと笑うカイルは知らない。
              たとえば、触れられる期待に次第に速くなる鼓動で震える胸。
              一秒でも早く、彼の指や唇が降りてくるのを待っている。
              満たされる欲望に火照ってうずき出す場所。
              きっと目にすればすぐに分かるほど彼を求めているだろう。
              あたしが、どれだけ貪欲にそれを待ち望んでいるのか。
              いいえ、身体の変化だけではない。
              一番見られたくないのは、もっと別のモノ。
              乳房を貪るカイルの髪に指を通して、彼の頭を掻きいだく時。
              彼を夢中にしているのはあたしの身体だと、秘やかに這いのぼる微笑み。
              覆いかぶさる広い背中にしがみつきながら、
             この至福の時をあたし以外の誰にも味わわせたくないと爪を立てる瞬間。
              独占欲と、優越感と。
              もし、見られたらカイルは感じ取ってしまう。
             「やっぱり、灯りを消して」
              カイルの視線から顔を背けながらつぶやく。
              そんなに、優しい目で見ないで。
              彼が思うほどに、あたしはうぶでも純情でもない。
              人一倍の欲望にまみれながら、与えられることに慣れきった女。
              それ以上を望む女。
             「いやだ」
              カイルの指が顎をとらえる。
              あたしの目をのぞき込みながら、低い声でささやく。
             「全部、見たい」
              あたしはすすり泣きのようなため息をつく。
             「どうして?」
              どうして、そんなイジワルを言うの?
              いつだって、お願いは聞いてくれたじゃない。
              困惑するあたしの頬を撫でながら、カイルはまっすぐに見下ろす。
             「欲しいから」
              欲しい?なにを?
              あたしは、あたしの持つすべてをカイルに差し出した。
              身体も、過去も、これから生きていく未来も。
              その代わりに――――――あなたをもらってもいいでしょう?
              あなたを抱きしめ、自分の腕の中で眠らせる権利。
              他の誰にも渡したくない。
             「全部、あげたわ」
              カイルの唇が降りてくる。
              熱を持つ耳朶のそばに、伏せたまぶたに。
             「もっと、欲しい。なにもかも。声も、吐息も、心も、眠っている時に見る夢も」
              真剣な声。
              あたしは震えながら、耳に注ぎ込まれる言葉を受け止める。
             「そんなもの・・・」
             「ダメか?」
              ダメ。きっと幻滅する。
              あたしが、どんなに醜い感情を持っているのか知ったら。
              固くしたままの身体が不意に荒々しく抱きしめられる。
              息をするのが難しいほど強く。
             「ダメなら、奪いとる」
              そう言うと同時に、乱暴に肌がまさぐられる。
              あたしは短く声をあげる。
              唇が肌を吸い、歯が立てられる。
             「カイルっ!」
              走り始める身体の熱に、あたしは身をよじる。
              抵抗などできない。なによりもそれを喜んでいるのはあたしだから。
              欲しがっているのは、あたし。
              時々、自分でも恐ろしくなるほどに強く。
             「・・・だったら・・・」
              激しい息づかいに紛れてカイルの耳には届かないはずけれど、あたしは尋ねる。


              だったら、カイルを全部くれる?
              あなたを全部、あたしだけのものにしてもいい?


                       おわり
   

    

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送